利益が出ているのに、なぜキャッシュが足りないのか?

 「へー。減価償却費は、支出が先に済んでいて費用は後から計上する、なんですね」
 早苗はC/Fの理解が進んでいく中で、伊藤支店長の言葉を思い出していた。

 「以前、銀行の支店長から『千葉精密は儲けていない』『利益には質があり、千葉精密は現金が減少する質の悪い利益』だと言われました。利益が売掛金や在庫に化けてしまったままで、お金自体は稼げていなかったんですね」

 「その支店長、うまいこと言うね! 座布団2枚あげて!」
 そう言うと、川上はビールを一気に飲み干した。

 「ところで、さなえ。明日と明後日なんか予定ある?」
 早苗は、iPhoneのスケジュールアプリを立ち上げて確認したが、特に予定はない。

 「えっと、だ、大丈夫です。たまたま空いてますけど……」
 早苗はiPhoneから視線を離さず、うつむいたまま答えた。

 「それならゲームやろうよ!」

相馬裕晃(そうま・ひろあき)
監査法人アヴァンティア パートナー、公認会計士

1979年千葉県船橋市生まれ。
2004年に公認会計士試験合格後、㈱東京リーガルマインド(LEC)、太陽ASG 監査法人(現太陽有限責任監査法人)を経て、2008 年に監査法人アヴァンティア設立時に入所。2016年にパートナーに就任し、現在に至る。
会計監査に加えて、経営体験型のセミナー(マネジメントゲーム、TOC)やファシリテーション型コンサルティングなど、会計+αのユニークなサービスを企画・立案し、顧客企業の経営改善やイノベーション支援に携わっている。年商500億円の製造業の営業キャッシュ・フローを1年間で50億円改善させるなど、社員のやる気を引き出して、成果(儲け)を出すことを得意としている。
著書に『事業性評価実践講座ーー銀行員のためのMQ会計×TOC』(中央経済社)がある。MQ会計を日本中に広めてビジネスの共通言語にする「会計維新」を使命として、公認会計士の仲間と「会援隊」を立ち上げ活動中。