リー氏は9月2日付でハーベスト・テックを辞職し、名実共にハーベストグループとのつながりは消滅した。前述の交渉関係者が予想した通り、ハーベストがJDI支援に乗り出すことはなく、スポンサー交渉はまたも暗礁に乗り上げた。

 もはやSuwaに資金調達の交渉力が残されているのかどうかは疑問符が付くが、9月27日の臨時株主総会で社長に就任した菊岡稔氏をはじめJDIの新経営陣に、今後の再建もSuwaに依存する方針を変える考えはない。

経営中枢に食い込むもう一人の台湾人は鴻海グループ元幹部

 JDIは、今後の取締役体制を9人にする予定で、うち5人をSuwaから受け入れる方針だ。その人選は、相次ぐスポンサーの離脱で遅れているが、筆頭候補がリー氏で、もう一人の候補が冒頭の記者会見で強気の発言を繰り返した許氏。

 ハーベストの離脱でリー氏の発言力は弱まっており、いまや許氏がJDIの資産査定や経営会議に姿を現す場面が増えている。9月26日のJDIの取締役会にも出席し、JDIの経営中枢ヘの関与を日に日に強めている。
 実は許氏は、JDIの元執行役員だ。JDIを2018年3月に退社し、同じ台湾人のリー氏と共にSuwaを立ち上げて、再びJDIに接近し、瞬く間にJDI再建のキーマンになった。

 金融マンのリー氏は液晶事業のノウハウはないが、許氏はこの道の専門家。1990年代に台湾の奇美電子(チーメイ)の立ち上げに関わり、鴻海精密工業傘下の群創光電(イノラックス)時代には、郭台銘(テリー・ゴウ)氏の下で、副総経理としてグループの液晶事業を立ち上げた。JDIには13年に入社し、子会社の台湾ディスプレイ(TDI)の社長に就任し、中国ビジネスの開拓を任された。

 だが、当時を知る複数のJDI関係者は「TDIは安売りばかりで損失が膨らみ続けた」「ジェフの経営は完全に失敗だった」と口をそろえる。実際にTDIは事実上の会社清算に追い込まれ、17年5月の最終処理で200億円を超える債務超過が発生した。許氏はそれから1年もたたずにJDIを追われたが、その人物が再び経営中枢に食い込んでいることに社内の反発は強い。

 一方で、新たに会長に就任した橋本孝久氏は許氏への信任が厚い。橋本氏もかつて奇美電子の立ち上げに関わった経験があり、当時の部下が許氏だったという。

 振り出しに戻った金融支援交渉で、JDIの新経営陣はSuwaへの依存を強める。かつて郭氏の下で働いた経験がある許氏は、打開の道を探れるか。その実力は未知数で、経営の混迷は続きそうだ。