しかし、多くの国立公園で、登山者の宿泊施設や登山道の維持管理、そして自然環境の保護などを現場で実質的に担っているのは、国ではない。民間の山小屋である。

 近年の山小屋サービスの進化に紛れがちだが、山小屋は登山者に対して食事と宿泊場所を提供し、かつ登山者の安全をサポートする公共的な役目を持つ施設だ。ほとんどの山小屋が予約なしで宿泊を受け付けるのはこのためだ。また、山小屋周辺の登山道整備や、遭難発生時の一時救助を山小屋が行うのも日常茶飯事。登山者の不意の病気やけがに対応する山岳診療所を併設した山小屋も多い。

 山小屋への物流の寸断は、登山者の安全のために山小屋が担ってきた公共機能の寸断を意味する。

 しかし、山小屋が本来は国が直接管理すべき国立公園での公共機能を事実上代行していることに対して、行政の支援はほぼないに等しい。今回のヘリ問題についても環境省は「山小屋が公共的に必要な存在だとの国民全体の認識がなければ行政支援には理解が得られない」(熊倉基之国立公園課長)とするスタンスを崩さない。

 「民営国立公園」──。多くの登山関係者がこうやゆする、日本の山岳維持管理の構造問題。これが何ら解決されないまま、国は国立公園をインバウンド誘致の切り札として“活用”する方向性を打ち出している。数度の登山ブームで大きく膨らんだ登山経済。それを支えてきた土台が崩壊寸前にある。今、日本の山に何が起こっているのだろうか。

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