「5分間の親切」が、簡単かつ効果が最大

 ビルは人を助けるのが好きで、信じられないほど寛大だった。ビルと一緒のときは食事やドリンクの支払いをする必要がなかった。あるときカボで友人たちと休暇を過ごしていたビルは、彼らの子どもたちをみんな夕食に連れていき、全員にバーのTシャツを買ってあげた。毎年のクリスマスパーティには最高級の赤ワインを何箱も買った。ワインが好きだからではなく、友人たちがワインをおいしそうに飲むのを見るのが好きだったからだ。

 そりゃ金持ちはTシャツやワインをばらまけるさと、あなたは思うかもしれない。たしかにそうだ。

 でもビルは金持ちになるずっと前からそうだった。彼は寛大な精神を持っていた――それはお金がなくても、誰にでも持てるものだ。たとえば彼はとても多忙だったが、自分の時間を惜しみなく人に与えた。予定表は2か月先しか空いていなくても、本当に彼を必要としている人には、すぐに電話をかけた。

 ビルの小さな贈り物はほとんどの場合、アダム・グラントが著書『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』のなかでビジネスマンのアダム・リフキンのものとして説明する、「5分間の親切」にあたる。親切をする側にとっては簡単で、負担もほとんどかからないが、受ける側にとってはとても大きな意味のあるものごとをいう。

 グラントはレブ・リベルとの共著論文でこう書いてもいる。「成功するギバー(与える人)になるということは、誰にでもいつでも何でもしてあげるということではない。自らの負担より、他人を助けることのメリットが上回るかどうかを意識する必要がある

 これをうまくやる人を、グラントは「自己防衛的なギバー」と呼ぶ。彼らは「寛大だが自分の限界を自覚している。頼みごとにむやみにイエスと言わず、寛大な行動を楽しみながら持続できるよう、小さな負担で大きなインパクトを与えられる方法を探す」。

 人を助けることと寛大であることは、本書で説明する愛とコミュニティの概念と直接結びついている。親友に頼みごとをされたら、もちろん聞いてあげるだろう? 友人を愛しているし、友人の判断を(たいてい)信用しているし、友人のためなら何でもしてあげたい。だから友人の助けになることで、友人が正しいと思っていることなら、ためらわずにする。

 なのに相手が仕事の同僚になったとたん、話はそう簡単ではなくなる。手続きがあるから、不公平と思われるからなど、私たちが聞いてきたような言い訳が頭に浮かんでくる。だから頼みごとを聞いてあげない。

 人を助けていいのだと、私たちはビルから学んだ。一肌脱げ。それが正しいことで、全員のためになるという確信があるなら、頼みごとを聞いてやれ。

(本原稿は、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著『1兆ドルコーチ──シリコバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』〈櫻井祐子訳〉からの抜粋です)

エリック・シュミット(Eric Schmidt)
2001年から2011年まで、グーグル会長兼CEO。2011年から2015年まで、グーグル経営執行役会長。2015年から2018年まで、グーグルの持株会社アルファベット経営執行役会長。現在はグーグルとアルファベットのテクニカルアドバイザーを務めている。

ジョナサン・ローゼンバーグ(Jonathan Rosenberg)
2002年から2011年まで、グーグルの上級副社長としてプロダクトチームの責任者を務めた後、現在はアルファベットのマネジメントチームのアドバイザーを務めている。

アラン・イーグル(Alan Eagle)
2007年からグーグルでディレクターとしてエグゼクティブ・コミュニケーションの責任者、セールスプログラムの責任者を歴任している。

3人の著書に世界的ベストセラー『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』(日経ビジネス人文庫)がある。

櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中に、オックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書に『第五の権力』『時間術大全』(ともにダイヤモンド社)、『NETFLIXの最強人事戦略』(光文社)、『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』(日本経済新聞出版社)などがある。