渋谷スクランブルスクエアの東側は12年開業の複合ビル「渋谷ヒカリエ」に隣接、西側は来年3月に閉店する東急百貨店東横店がある。同東横店は27年度にスクランブルスクエア第2期棟として開業予定だ。一帯は渋谷の新たな顔として、かなりの集客力を持つと見込まれている。

 こうした公共交通をベースにした再開発は「トランジット・オリエンテッド・ディベロップメント(TOD)」と呼ばれる。広い土地が少ないため、駅や商業エリア、住宅地が密集する日本で特に発達してきた建築文化である。

 渋谷駅は周辺が立体化され、ビルや交通機関が階層を成す。

 渋谷スクランブルスクエアの地下2階から地上3階は、JR山手線や東急東横線、東京メトロ銀座線など鉄道3社8線やバスターミナルといった公共交通機関をエスカレーター1~3本程度で移動できるよう垂直の動線(アーバンコア)でつながる。来年1月には3階に銀座線の改札口が設けられる。

 近隣にある複合ビル「渋谷マークシティ」には京王電鉄の渋谷駅があり、将来は、渋谷スクランブルスクエアから他のビル経由で歩行デッキを通り、京王井の頭線までスムーズにアクセスできるようになる。

 こうした立体化は、地形を念頭に設計された。渋谷スクランブルスクエアは渋谷の地形である谷に位置しており、谷の上とは約20メートルの高低差がある。複数のビルが歩行デッキでつながることで、ビル周辺に広場や商業スペースを増床するだけでなく、谷の上部に広がる道玄坂や宮益坂周辺の住宅街にも行き来しやすくなる。鉄道や国道246号などのインフラに分断された街を大規模な再開発によって整備したのである。

渋谷を糧に
駅再開発で海外受注狙う

 街づくりの分野で“進んだ都市”といえば、欧州がイメージされるが、TODに関してはニーズが高く、先進的な取り組みが集中するのは日本をはじめとするアジア。勝矢氏は「欧州の都市は人口の規模が日本よりも少ない所が多い。故に日本の都心のように大量の人の往来を支える鉄道中心の街づくりとは進め方が違う」と言う。

 欧州の都市人口は多くても数百万人規模で、車での移動が第一だ。しかし、日本や人口が増加している中国、東南アジアでは人口1000万~2000万人規模を支える街づくりを想定し、かつ公共交通での移動が多いため鉄道計画との連動が重要になる。

 東京の街は、TODの事例が多く、日本の設計事務所は豊富な知見を持っている。

 中でも渋谷のTODは規模が大きく、最高レベルの技術の粋を集めたもの。日建設計は、渋谷駅周辺を都市再生緊急整備地域にする議論が始まった頃から再開発計画に参加しており、すでに約20年たった。渋谷再開発の九つのプロジェクトのうち、渋谷スクランブルスクエアや渋谷ヒカリエなど複数の施設の設計に関わっている。

 国内でのTOD案件は途絶えることなく、日建設計は新宿駅でも再開発を手掛けているところだ。

渋谷の街中央下部のピンクのロゴが渋谷109 Photo by T.M.

 それだけでなく、国内にとどまらず海外でも、中国の上海近郊や広州駅郊外、ロシアのモスクワ郊外にあるボタニック・ガーデン駅周辺のTODなどで設計を担当し、着々と実績を積み上げてきた。

 国内建設は人口減少により将来的には案件が減るものの、駅周辺の再開発や再開発ノウハウの海外輸出は設計業界にとって手堅い事業。さらに海外でも受注を増やそうとしており、渋谷再開発をその糧にしていくのである。