――日本の大手企業では組織がフラットではないせいもあり、異なる階層や部門の意見を聞くことが、なかなか容易ではありません。

 階層を減らして組織をフラットにすることは、極めて重要です。特にミレニアル世代(1980年代序盤~90年代中盤生まれの世代)の社員は、フラットな組織で自分の意見にきちんと耳を傾けてもらいたいと考えています。フラットな組織は、米国企業ではかなり一般的ですし、世界的にもその重要さが認識されているのではないでしょうか。

 創業者のマーク・ベニオフ会長兼共同最高経営責任者(CEO)もそうですが、経営者というのは社員全員と直接、意思疎通したいと思うものです。ですからセールスフォースでは誰でもCEOに直接メールができますし、メーリングリストも共有されています。そしてもっと有効なのが前述したチャターであり、さらには「V2MOM」という独自の目標管理手法です。Vision (ビジョン)、Values(価値)、Methods(方法)、Obstacles(障害)、Measures (基準)という5つの言葉からなる言葉です。経営トップを含めて、全社員が毎年V2MOMを定め、全社的に共有しています。

 毎年2月、年度の初めにハワイで開くイベントで、ベニオフCEOが会社としてのV2MOMを明示します。イベントには全社員が出席するわけではありませんが、内容はすべて社内に公開され、あらゆる社員がアクセスできます。そして全社員がチャターを通してフィードバックでき、自身のV2MOM策定に繋げるのです。こうやって、フラットな意思形成が実現しています。

 日本は歴史として階層的な文化があったと思います。そういう文化ではV2MOMのように、オープンに会社の方向性を議論・共有することにある種の恐れを感じる人がいるかもしれません。つまり、会社がどこを目指すべきかについて自身の意見を示しても大丈夫なのか、という恐れです。しかし私が知っている日本企業の経営幹部は皆、変革を望んでいます。組織をフラット化して従業員の声に耳を傾ける必要性を感じています。だからこそセールスフォースが日本市場で成功を収めているのだと思います。

――フラットで個々の意見に耳を傾けられる組織においては、意見の多様さが求められそうです。そのために社員のダイバーシティ(多様性)が重要になるのでしょうか。

 そのとおりです。多様な考え方があれば、より良いイノベーションに繋がります。多様な人からの多様な意見に耳を傾けないというのは、イノベーションに意欲がないことに等しいのです。しかしたとえば性の多様性の場合、女性は男性に比べて、会議で積極的に発言する意欲が低いことがあります。ですからリーダーは、あらゆる声に耳を傾けるよう会議を運営しなければなりません。もしかすると口数少ない人が最も優れたアイデアを持っているかもしれないのですから。