ホルモン補充はずるいと
思われてしまうことも!

信じられないほど元気な<br />医師ふたりが本音で語る!<br />「ドーピングで元気になろう!」熊本悦明(くまもと よしあき)
日本メンズヘルス医学会名誉理事長。日本臨床男性医学研究所所長、泌尿器抗加齢医学研究会顧問。札幌医科大学名誉教授。オルソクリニック銀座名誉院長
1929年東京生まれ。東京大学医学部卒業、同大学講師(泌尿器科学講座)を経て、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。68年に札幌医科大学医学部泌尿器科学講座主任教授に就任。泌尿器外科学のみでなく、男性医学・尿路性器感染症を中心に研究を進め、日本メンズヘルス医学会、日本性感染症学会を創立。日本における男性医学の父と言われており、経済界や政治家、芸能人からの信頼も厚く、90歳の今も、東京での診療はもちろん、日本各地、海外での講演など現役で、精力的に活動を続けている。

――ホルモン補充療法が、いかに効果があるかは、よくわかりました。でもホルモン補充と聞くと「それってドーピングじゃないんですか」と言う人がけっこういらっしゃいます。「ずるい」というイメージなのかもしれません。それぞれの第一人者であるおふたりは、どうお考えですか。

熊本 ホルモン補充療法は、たしかに「ドーピング」の一種かもしれません。しかし、オリンピックに出場する選手がドーピングをしたら問題ですけど、普通に暮らしている私たちがホルモンを補充しても何の問題もない。

ただ、何となくよくないことなんじゃないかとか、怖いことなんじゃないかというイメージを持つ人は、たしかにいます。

村崎 私は逆に、元気のない患者さんに対して「では、ドーピングをしましょうか!」と言っています。違法ドーピングの何分の1でしかないテストステロン補充を、医学的裏付けのもとに行うことに何の問題もありません。

熊本 それは素晴らしい。私も常々、減ってしまったホルモンを補充するのは、歯が悪くなった人が入れ歯を入れたり、目が悪くなった人がメガネに頼ったりするのと同じことだと言っています。あえて「ドーピング」という言葉を使って患者さんをドキッとさせることで、自分の健康について考えるきっかけになるでしょうね。

――ホルモン補充療法のことを知っている人も、だんだん増えてきました。中途半端に知っている人の中には「あれは副作用が怖いんじゃないか」というイメージを持っている人もいます。そこは心配する必要はないんでしょうか。

熊本 テストステロンを補充すると、前立腺に悪い影響があるという説は、たしかにあります。しかし、医者はやみくもに補充するわけではありません。きちんと患者の状態を見ながら補充療法を行なう分には、まったく心配ありません。基本的に、テストステロンの補充療法には副作用はないと言っていいでしょう。

村崎 そうは言っても人それぞれ体質も違うし、飲んでいる薬があったりするので、まったく影響がないとは言い切れません。それに、どんな薬にも副作用はあるものです。女性ホルモンのエストロゲンの補充療法にも副作用はあります。ただ、良い副作用のほうがずっと大きいのです。悪い副作用はリスクとして注意深く診ていかねばなりません。

以前、アメリカでエストロゲンの補充療法で乳がんのリスクが上がったという論文が発表されたことがありました。一方で、日本人の場合は体質も食生活も違うから心配する必要はないという説もあります。実際、私もずっと補充していますが元気に過ごしていますが、リスクの面に対しては、自分も一患者として注意を怠りません。

男性ホルモン補充をすると
ハゲになる副作用?

熊本 男性の患者さんや、その奥さんが心配するのがテストステロンを補充するとハゲるという説。テストステロンと5αリアクターゼという物質が結びつくと、毛根機能を害するDHT=ジヒドロテストステロンに変換されます。

ですから、もともとテストステロン値が高い人はハゲる傾向はあります。ただ、ホルモン補充療法をしたから抜け始めたという話は聞いたことがありません。私も若い頃からテストステロン値が人より高めで、30代の頃からおでこは広めでした。

増毛のために男性ホルモンを抑える治療法、いわゆるAGA治療が宣伝の甲斐があってか、爆発的にはやりましたが、それは本当に残念です。髪の毛を少しばかり増やすのと毎日を元気で過ごすのと、どちらが大事かという話です。自分自身のことでいえば、私は毛が少ないことに誇りを持っています。

村崎 アハハ、先生らしい力強い宣言ですね。テストステロンにせよ、エストロゲンにせよ、補充療法を受ける患者さんに、どういうリスクが考えられるかを説明することは必須ですよ。

怖いと思うのも当然だし、ある程度のリスクがあるのも事実です。健康診断は必ず受けてくださいとも言っています。小さなリスクを恐れて、元気に過ごすという大きな幸せをつかみ損ねるのは、あまりいい判断ではないと私は思うことがあります。

熊本 確かに私はもう運転しませんが、遠くへ行くのに「自転車や車を使うと事故を起こす可能性があるから」と敬遠するのと同じようですね。