そうした中で、スバル側は「大株主の言うことは聞きますよ」とトヨタに譲歩することが多かった。そうした不満が溜まった結果、「スバルからこの技術は絶対にトヨタには明かさないぞ」と、意固地になるわけです。お互いに、そういう経験が積み重なって、心の壁ができていました。それを壊す必要がありました。
もはや、「ここから先は教えない」などと互いに言っている時代ではないのです。(CASE〈コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化〉の波がやってきて)「100年に一度の大変革時代」を迎えている。でも、波がどういう方向か、いつ来るかは分かりにくい。その中で、全部の技術に手を出しているとパンクします。トヨタだってスバルと協業できるところはしたい。できるところは両社で効率的にやりましょうということです。
トヨタと協業するところと、スバルらしさを磨くところを分けて、後者にしっかりリソースを充てられるようにします。
でも、トヨタとの間に壁をつくって仕事をするのをやめよう、といっても従業員は「変わるわけない」と思うでしょう。だから、協力関係を本気で変えるための「象徴」が欲しかった。だから株式を持ち合うことにしたのです。
――トヨタとのギブ&テイクはどう変わるのでしょうか。何を取りにいきますか。
これまでは(ギブとテイクが1対1の)ウィン・ウィンの関係でした。つまり、何かもらったら、こちらから何か返さないといけない。それが、スバルからも出資する「持ち合い」によって変わったのです。
実のところ、スバルから提供できて、トヨタが喜ぶものって、そんなにないのです。だって売上高で10倍も違う会社ですから。いきおいトヨタが得るものより、スバルが得るもののほうが多くなる。それでスバルは「(トヨタから出してもらえない技術については)しょうがないから自分たちで開発するか」などと言って悩んでいました。
スバルとトヨタの販売店はガチンコで戦っています。スバルのSUV「フォレスター」の最大のライバルはトヨタの「RAV4」。真っ向勝負をしているという現実の中で、(ギブ&テイクのバランスが崩れている状態では)互いに「敵に塩を送りたくない」「この技術は明かさない」となってしまうのは自然なことだったと思います。
でも、今回、スバルがトヨタに出資するのだから「対等な関係」、イコールパートナーになるのです。スバルからの出資額がどうだとか、トヨタのスバル株式の持ち分比率がどこまで上がったか、ということは重要ではありません。「株を持ち合う」イコールパートナーになったことなったことが重要なのです。