18日に発表された和解内容を見ると、三菱重工の主張に分があったようだ。

 三菱重工は2000億円と、日立が保有するMHPSの全株式(持分比率35%、評価額約3500億円)を得る。請求額にはとどかなかったものの、同プロジェクト関連で日立から補償を受けることを見込んで資産計上していた約5500億円を全額回収できることになった。

 それらの支払いなどのため、日立は2020年3月期決算で、3780億円の損失を計上する。

統合効果はハードウエアのみ
ソフトと新規事業ではシナジー乏しく

 ただし、今回の和解で興味深いのは、合意内容の勝ち負けよりも、今後の三菱重工と日立の関係性についてだ。

 両社はそれぞれ18日に、和解についての会見を開いた。三菱重工も日立も、「(和解した相手とは)引き続きパートナーである」という典型的な“円満離婚宣言”を強調してみせた。

 しかし、である。今後の注力分野として両社が共に挙げたのは、「脱炭素」と「再生可能エネルギーの活用を見据えた電力供給の効率化」のソリューション事業であり、ほぼ共通している。両社の将来の注力分野は、思い切りバッティングしているのだ。

 原子力発電所の新規建設の停滞や、温室効果ガスを排出する火力発電への逆風により、三菱重工も日立も発電機器の販売だけには頼れなくなった。いきおい商機を見いだせるのは、デジタル技術を使った発送電のソリューションに限られる。ソリューション事業は、両社の「生命線」であり、その市場争奪戦は避けられないのだ。

 18日の会見で、特に、三菱重工は日立への対抗意識を隠さなかった。

 三菱重工の100%子会社となるMHPSの河相健社長は、これまで同社が日立本体のリソースをほぼ使わず「MHPS単独でやってきた」ことを明らかにした上で、「(合弁解消で日立の技術が使えなくなるといった)デメリットはほとんど感じていない」と言い切った。

 MHPSにおける三菱重工と日立のシナジーは、火力発電用タービンをはじめとしたハードウエアの開発、製造(両社出身の技術者によるもの)に限られていた。親会社が保有するソフトウエアなどを使ったソリューションや新技術の開発ではシナジーがほとんど発揮されてこなかったのだ。

 河相社長はさらに、「これまで日立との協業で気を使いながらやってきたが、今後は気兼ねなく三菱重工のリソースを利用できる」と合弁解消のメリットを強調した。

 これまで、三菱重工と日立による合弁契約により、MHPSは親会社2社と競合する事業は自粛することになっていた。そのため、例えばMHPSが顧客から洋上風力発電の相談を受けても、日立が風力発電のソリューション事業をやっているという理由で商談を進められないという事態が発生していたのだ。

 さらに今後、本格的に市場が拡大する、デジタル技術を活用した発送電の効率化についてもMHPSは日立に遠慮せざるを得なかった。

 一方の日立は、電力流通のソリューション事業を強化するため約7000億円を投じてスイスの重電メーカーABBの電力システム事業を買収し、送電事業でグローバルに打って出る。この分野では三菱重工の一歩も二歩も先を行っている。