譲渡先として最有力候補と言われるのが、前回辞退した東北電、東ガス、JAPEXの3社連合。しかし、今回は単独候補とはなりそうにない。
対抗馬として石油元売り最大手のJXTGホールディングスやオリックスといったビックネームが浮上している。
さらには、LPガス業界の“暴れん坊”の異名を取る日本瓦斯や、東海地方が地盤のTOKAIグループなど東北エリア外からの顔ぶれも名乗りを挙げそうだ。
なぜ今回は争奪戦となるのか。そこには、二つの変化が影響している。
一つは、予想される譲渡価格の下落である。都市ガス業界関係者は「譲渡価格は400億円前後になるだろう」と見る。
市は譲渡でカネを得て、借金である企業債を全て償還したい。故に譲渡価格の基準は仙台市ガス局の企業債残高とされる。民営化が一度頓挫した08年度末は企業債残高が688億円あった。これが17年度末は406億円まで縮小しているのだ。
もう一つが電力・ガス市場の競争激化だ。16年に電力、17年にガスがそれぞれ小売り全面自由化になった。電力とガスをセットで販売する戦略を中心に各社が全国各地で顧客獲得競争を繰り広げるようになった。
電力・ガス小売全面自由化の競争が激しいのは、肥沃な市場である首都圏、そして関西が中心だ。東北エリアは、特に家庭向けガス事業の参入者がゼロで競争が全く起きていない。
それはひとえに、仙台市ガス局が公営事業として運営していたからだ。
公営企業である仙台市ガス局は34万件の顧客基盤を持ち、このエリアの都市ガス事業だけで300億円前後のマーケットがある。
この公営ガス最大手を民営化で手中に入れば、東北もビジネスの舞台となり得る。電力も合わせれば大きなポテンシャルを秘め、仙台市を拠点にして東北地方を攻め込む戦略を描くことができる。
域外からの参入者は東北のガス・電力市場に乗り出すチャンス。地元の東北電は、何としても仙台市ガス局の民営化を譲り受けて陣地を死守したいところだ。
割高な調達コスト
争奪戦を制しても負の遺産を背負う
ただ、譲渡を受けたところで、仙台市のガス事業は当面、採算が厳しいことが目に見えている。仙台市ガス局から“負の遺産”も引き継ぐことになるからだ。