仙台市ガス局は国内の公営ガス事業者で唯一都市ガスの燃料である液化天然ガス(LNG)を自前で調達している。調達先はマレーシアだ。

 自前調達の手間をかけることで調達コストを圧縮できているのかといえば、実はその逆。同じくマレーシアから調達して首都圏や関西圏で取引される価格より、15~30%高い場合が少なくないのである。

 東電グループと中部電力による合弁会社であるジェラは世界最大規模となる年間4000万トン、都市ガス最大手の東ガスは1400万トンのLNG取扱量であるのに対し、仙台市ガス局は16万トンしか扱っていない。然るにコスト競争力に差が出てしまっている。

 大手事業者が仙台市ガス局の事業譲渡先になれば、大手の調達力を生かしてコストが下げられるように思えるが、事はそう簡単ではない。

 LNGの調達は、10~20年の長期契約が主流だ。仙台市ガス局が結ぶマレーシアのLNG調達は、28年3月までの長期契約。この期間中は、契約で決められた価格レンジ内で年間16万トンを引き受けることになっている。

 契約を解除すれば巨額の違約金が発生する。事業譲渡先がLNG調達契約を引き継ぐのが、LNG業界の一般的な習わしだ。

 大手が事業を引き受けたときに、頭が痛いのはこの割高な契約だけではない。

 仙台市ガス局は受け入れ基地も整備している。受け入れ基地は現在使用する約8200トンの小型輸送船用に整備されたもので、ジェラや東ガスが保有する7万トンを超える大型輸送船が入ることができない。

 調達のコスト高を料金に上乗せするという手は使えそうにない。市の計画では民営化後のガス料金について、現行のガス料金水準を上回らないよう事業譲渡先に求めている。

 民間事業者は争奪戦を勝ち残ったところで、 その後は負の遺産という落とし穴に対処しなくてならない。

 東北エリアに参入するチケットは10年を経ても、結局は高い。地元住民にしても、ガス料金が安くなるといった民営化の恩恵をすぐに享受はできるわけではなさそうだ。

訂正 記事初出時より、以下のように改めさせていただきました。
1)23段落目:5000万トン→4000万トン 
2)28段落目:仙台市ガス局は自前でLNG輸送船を保有し、受け入れ基地も整備している。受け入れ基地は、保有する約8200トンの小型輸送船用に整備されたもので、ジェラや東ガスが保有する10万トンを超える大型輸送船が入ることができない。→仙台市ガス局は受け入れ基地も整備している。受け入れ基地は現在使用する約8200トンの小型輸送船用に整備されたもので、ジェラや東ガスが保有する7万トンを超える大型輸送船が入ることができない。(1月16日 9:00、ダイヤモンド編集部)