「物は価値を生んでいる」というバイアス

山口:近代というのは「サイエンス」「テクノロジー」など、人文科学の力を使って、世の中の不安、不便、不満を解消してきました。三種の神器に代表されるように、これらはたいてい物を使って実現されてきたのですが、日本がこれだけ豊かなGDP(国内総生産)を築くに至ったのは、まさに物を作って発展してきたからです。

だから、未だに「物は価値を生んでいる」というバイアスがある。しかし、世の中では「断捨離」という言葉が流行ったり、近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』が世界40カ国で1000万部以上のベストセラーになったり、物を減らすことにお金を払う人が増えています。

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また、「便利なものには価値がある」というのもバイアスです。

「不便なもの、まあまあ不便なもの、便利なもの、3つの物があります。あなたならそれぞれにどう値段をつけますか?」と質問をすると、たいていの人は便利なものを高くして、不便なものを安くします。

ところが、実際に世の中を見てみると、不便なものほど高い。便利さには価値があると頭で思っているだけで、世の中はすでにそこに価値を見出していないのです。

よい例が、薪ストーブや暖炉。すでにエアコンがついていて、ボタンを押すだけで簡単に部屋を暖めてくれるのに、薪ストーブや暖炉に惹かれる人が増えている。不便さでいえば、1番が暖炉、2番が薪ストーブ、3番がエアコン。でも価格はもっとも面倒な暖炉が約100万円、薪ストーブが50万~100万円。一番便利なエアコンなら数万円で購入できます。

高いけど、不便だけど、それが価値につながる。ロマンや情緒、ストーリーにお金を払う時代になったわけです。