人間に「正解を出す」仕事はやらせられない
山口:何を言いたいのかというと、世の中の状態は「サイエンス(理性)」から「アート(感性)」に移行したということです。
正解が希少だったこの半世紀、「サイエンス」側の職業の人たちが心血を注いだおかげでテクノロジーはどんどん進化しました。そのなかかで誕生したのが人工知能ですが、人間の能力が人工知能にかなわない状態がすでに10年前から起こっています。チェスも囲碁も将棋も世界チャンピオンは人工知能になってしまいました。
また、アメリカのクイズ番組「Jeopardy!」では、ワトソンという人工知能が地方選から勝ち抜いて、最終的には圧倒的な能力でチャンピオンになりました。
囲碁や将棋、クイズで求められるのは「正解を出す能力」です。これまで優秀さの定義とれさてきた「正解を出す能力」は、すでに人工知能に勝てない時代になってしまったのです。
あと10年もすれば、ワトソンのような人工知能が量販店で買える時代がやってくる可能性があります。経営者が人工知能を購入し、「今日からこれが上司になるからよろしく」といった状況が出てくるかもしれない。
経営者にとってはかなりの経費削減になります。東大卒や京大卒の人を雇うとなると、最低でも人件費として年間300万~400万円はかかります。どんなに優秀でも、人間は1日に6~7時間しかフルパフォーマンスを発揮できないし、週に2日は休ませないといけない、年に2回は有給休暇をくれというわけです。
しかも、「最近、頑張っているね」と褒めてあげないと会社を辞めたいと言い出すし、彼女とうまくいっていないと急激にパフォーマンスが低下して精神的に不安定になる……。
しかし、人工知能なら24時間、365日、有給休暇がなくても、文句を言わずに働いてくれます。プライベートで問題が起こったからとパフォーマンスが低下することもないわけです。しかも100万円程度で買えるとなれば、人間に「正解を出す」仕事はやらせられない。いずれ、正解を出す仕事は、すべて人工知能にとられると思います。
(第3回に続きます)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。