EBOに潜むワナ
償還資金の原資はどこに?

 買収スキームの概略はこうだ。前出の買収会社チトセアの資本金は1万円。ここに対してローンスターは優先株で450億円、貸付金として1300億円を拠出する。だが、公表資料によると、ローンスターは買収成立後、6カ月で資金を回収する取り決めだ。短期でのエグジットを想定していることになる。

 では、ローンスターに返済する資金の原資はどこにあるのか。すでに触れたようにチトセアは資本金1万円の会社でしかない。そこに巨大なレバレッジを掛けて買収を成就するというスキームである。ユニゾやチトセアが開示していないため想定の範囲でしかないが、ユニゾが持つ現金や不動産を返済原資に充てる以外にはない。

 ユニゾの純資産は19年9月末時点で1260億円。不動産の含み益が潤沢にあるだけに、返済原資に困窮することはないとみられるが、貸付金を返済すれば純資産は吹き飛ぶ。実質的な減資スキームともいえる。

ユニゾの格下げリスク
取引銀行が損失被る懸念も

 問題になるのはこの点だ。ユニゾはメインのみずほ銀を筆頭に地銀など数十行から約4000億円を借り入れている。その他に無担保社債も1040億円ある。

 このため、買収が成立した場合、ユニゾは格付けの低下に直面するリスクがあり、融資をしている金融機関は引き当てを積まなければならない事態にも直面しかねない。

「対象会社の株式を取得するエクイティ性資金の返済のために、本来優先されるべきシニアのローンが劣後されるのではないか」。金融市場関係者の間で広がっているのはこうした懸念だ。

 みずほグループの一員と見なされるユニゾだが、今回の買収スキームはみずほからの脱却を企図しているようにも見える。「小崎氏はみずほからの独立を画策してきた」(みずほグループ幹部)との見方は少なくない。実際、小崎社長就任後、ユニゾは度重なる公募増資により、株式の希薄化を招いてきた。その結果、みずほ系株主の持ち分比率は年を追うごとに低下してきている。

 みずほFGは2000年代前半、不良債権の重荷で経営破綻の瀬戸際に追い込まれた。苦境を脱したのは顧客企業を引受先とした1兆円増資の成功によるものだ。その是非には議論もあるが、発案したのが小崎氏である。「構想力に秀でた抜群の頭の良さ」(同)は衆目の一致するところだ。

 今回の買収スキームも「TOBの要件は完全に満たしており、何か問題があるわけではない」(金融当局幹部)。

 TOB制度そのものは、株主の利益を守るものだ。だが、そこに債権者の利害が絡んだときにはどのような対応が望まれるのか。

 みずほ銀には貸し手を代表するメインバンクとしての責任もある。争奪戦の第2幕が上がる中で、みずほ銀の動向が注視されることは間違いない。

>>関連記事『旧「村上ファンド」の常勝アクティビストが足をすくわれた理由』を読む