プロダクト・マーケット・フィットは後付けでわかるもの?

朝倉:「プロダクト・マーケット・フィット」という表現はよく使われますが、実際に「プロダクト・マーケット・フィットが確立した!」と言えるのは、どんなタイミングだと思いますか?

小林:僕が以前イグジットした、ノボットでは、明らかにプロダクト・マーケット・フィットしたなというタイミングを感じました。具体的に言いますと、2010年の7月は売上10万円程だったのですが、その翌年のひと月の売上は1億円くらいでした。1年間で1000倍というすごい勢いで売上が伸びたのですが、社内では採用をはじめとするあらゆるものが、その急激な伸びに対して追いつきませんでした。当時は、なぜだか理由はわからないけれど企業が伸び続ける、事業投資にまとまった金額を使っても利益が出る、といったような状況でした。

朝倉:ものすごいスピードで成長していたんですね。

小林:はい。プロダクト・マーケット・フィットとはまさにそういった状況のことだと思います。ですが、僕の仮説だと、それはあくまでも事後の視点なんですよね。例えば、革命は、起きている最中には、それが革命だとはわからない、あくまでも、事後に「あれは〇〇革命だね」と言い表すことができるというか。プロダクト・マーケット・フィットも同様に、事前に予見することや、事業が走っている最中にはわからないものであり、事後の視点で後付けするものなのだと感じます。

朝倉:多くの投資家や起業家が「プロダクト・マーケット・フィットが確立したら」とよく口にしますが、それがどういう状況のことなのかを自分の言葉で語れる人は少ないかもしれませんね。

小林:経験している人が少ないですからね。あえて言うなら、「プロダクト・マーケット・フィットの仮説検証ができたら」と言えるかもしれません。

朝倉:一般論として、プロダクト・マーケット・フィットが確立した時に、大規模な予算を獲得し、スケールを目指して事業成長に投資していこうと考えるのだと思いますが、プロダクト・マーケット・フィットが確立したかどうかが事後的にわかるのであるとするならば、スケールするための勝負をするのに適したタイミングとはいつだと思いますか?

小林:B向けかC向けのプロダクトかによっても違うと思いますが、他の企業の統計から見て、目安となるリテンション(既存顧客維持)やチャーン(離脱率)の仮説を立てるのが一般的だと思います。ですが、その仮説も大いに外れ得ます。

多くのスタートアップが陥るミスとしては、小さな実績が出た時に、それがプロダクト・マーケット・フィットだと勘違いしてしまうことです。実はプロダクト・マーケット・フィットはしていなかったという、その段階でマーケティングに大量の予算を投下すると、チャーンレートが高まり、その後、プロダクトが伸び悩んで、最終的にはクローズしてしまうといった事態が起きやすいです。