(1)敵か味方か

 生き延びるためのホモサピエンスレベルの嗅覚的な判断かもしれない。部下にしてみれば意外かもしれないが、上司は自分の部下だからといって決して、手放しで自分の味方とは思っていない。

 部下にはいろいろなパターンがあり、たとえば上司が出した方針やアイデアに対して、

a.必ず賛成してくれて、どうやれば成功するか考えてくれる
b.基本的には賛成してくれるが場合によっては異論を唱えることもある
c.基本的には反対することが多いが、最終的には従う
d.いつも反抗的であり、挑戦的であり、反逆的である。最終的にはいやいや従う

 といった具合に分かれる。

 こうした場合、a、bは自分の味方だがcは味方ではないと考える可能性があり、dは敵と認識している可能性が高い。そして、ひとたび敵と認識されたらやっかいだ。内の敵は毎日顔合わすものなので、外の敵よりもうっとうしい存在である。

 上司だからといって必ずしもメンタルが強いわけではないので、毎日敵と顔を合わせるのは大変なストレスだ。それゆえに、敵と認識した人にはいろんな意味でとても厳しく当たる。本能レベルで敵か味方を判断しているのだから、立場的に部下だから味方と思ってくれるだろうと考えるのは間違いである。おそらく敵とみなされている人の多くは、仕事熱心で、純粋に仕事上の課題解決をしたいだけなのに、悲しいかな、視界から消えてほしいと上司に願われているというわけだ。

(2)上か下か

 ニワトリは群れができると、1回だけ総当たり戦で壮絶なつつき合いをして、厳密な序列、順位を決め、その後は種の保存のために、その順番通りに餌をついばむ性質があるということが知られている。

 会社組織においては上司が上に決まっていると考えるかもしれないが、人間はそれほど単純なものではない。ここでは、現在と将来の2つの時間軸での評価を考えてみたい。

 現在の上司の力量が部下のそれより大きい場合、小さい場合、そして部下が、将来上司よりも上に行ける(可能性が高い)場合と下のままの場合のこの4象限のいずれであるかを上司は認識する。

 現在、上司と部下に大きな差があるが、将来的には部下の方がポテンシャルが高いという場合、最も安定した関係になりやすい。つまり、経験の差もあって今すぐに自分の地位を脅かすわけではないが、将来性があるということだ。可愛がっておけばどんどん出世し、「自分(上司)のおかげ」だと言ってもらえる可能性もある可愛いやつである。

 一方、現在の部下との差がすでに小さく、ポテンシャルも大きいとき、相手は脅威となる。たとえば、部下の方が自分自身の上司の覚えがめでたい場合などは、直接の敵となる。自分の地位、領域や権威が相手によって脅かされる可能性があり、何かと対抗したり、抑え込もうとしたり、引きずり下ろそうとしたりするだろう。

 将来的に自分を超えることがないと予想される場合は、取り立てて問題はない。長年、便利な部下として働いてもらえるだろう。特別秀でて見えることもなければ、脅威でもない……ある意味、どうでもいい先輩後輩として仲良くやり続けられる。

 相対的な関係において自分の脅威になるかということに関して、上司は敏感にならざるを得ないのである。