しかし、Yさんの語り口は明るい。「居宅介護は、施設に比べればまだマシです」という。ハイリスクの人々を集めた施設は、クルーズ船と同様、集団感染のリスクを高めてしまう。入院すると、院内感染のリスクも高まる。容態が急激に変化することもある幼少の子どもを除くと、入院が好ましい選択肢とは限らない。
「とにかく、ご家族もヘルパーも含め、周囲の人間が注意し、情報を正しく早く理解することでしょう。万が一のときは、できるだけ早く主治医に連絡して指示を受け、連携機関にも連絡することでしょう」(Yさん)
寺田寅彦の「正しく恐れる」という言葉を現実化すると、このような対応となるのかもしれない。
なお、マスクや消毒用品は、Yさんの事業所でも不足気味ではある。しかし、ヘルパーたちが各自で持っていたマスクの備蓄、普段から利用者たちが自宅に用意していた消毒用品の備蓄があり、「当面は問題なさそう」だということだ。
そんなYさんが現在困惑しているのは、メディア報道だ。
「不要な情報を流して騒ぎを煽ることは、避けてほしいですね。特にテレビのワイドショーで、発症者についての話題が続いていると、そう感じます」(Yさん)
正しい情報や、世の中が必要としている情報も、もちろん伝達されるだろう。しかし、そういう場面での発言には、出演者本人の感情や憶測が追加されがちだ。視聴者が「タレントXさんの今の発言について、まずは厚労省のホームページをチェックして」というリテラシーを持っているとは限らない。
生活保護で暮らす難病患者が
医療からも遠ざけられる現状
本人と周辺の人々が十分に注意を払っていても、感染は起きるときには起きてしまう。現在のところ、筆者の直接知る範囲には、新型肺炎の罹患者はいない。しかし生活保護の場合、受診のハードルは普段から高い。新型肺炎は、ハードルをさらに高くしてしまっているようだ。