ちなみにAさんは、「もしかすると、生活保護だから意地悪されたのかも」とも感じている。普段は差別的な対応をすることのない機関で、混乱時に差別が表面化することは、よくあることではある。平常モードに戻った後も、差別された側は心の傷を疼かせ続ける。

「こういうことは全国で、他にも起こっているのではないでしょうか。今はまだ、実家の家族が助けてくれますが、両親も高齢になっています。自動車の運転ができるのは、向こう数年でしょう」(Aさん)

「大丈夫、生活保護があるから」
そう言える社会が必要では

新型肺炎パニックで露呈した「弱者見殺し社会」の実態本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中

 本記事の執筆中だった2月27日、政府は全国の小学校・中学校・高等学校に対し、休校を要請した。新型肺炎対策として、なるべく外出を避けることは、2月半ばから政府が要請し続けている。なるべく外出を避けるのであれば、買い出しが必要だ。

 しかし生活保護世帯は、おそらく買い出しからも出遅れているだろう。給与生活者にとっての月末は給料日から間もない時期だが、生活保護世帯にとっては、1カ月の中で最も「カネがない」時期だ。保護費の給付は、毎月初めである。

 また、一般人にできる新型肺炎対策の1つは手洗いだが、障害や疾患によってできなかったり、介助がないとできなかったりする人々もいる。結果として感染すれば、世の中に感染リスクを広げることになる。

 私たちは、目の前で福祉を削減され続けた果てに、あまりにも脆弱な社会をつくってしまったのではないだろうか。新型肺炎は、そのことを露呈させたのではないだろうか。

「いざというとき」の備えやセーフティネットがあり、「正しく恐れる」ことのできる社会をつくるために、生活保護の価値は大いに見直されてよいはずだ。

(フリーランス・ライター みわよしこ)