「良い準備」をするための2つの指針
・10パーセントルール
学習を始める前に、予想される全学習時間のおよそ10パーセントを準備作業に投じるべきだ。週に約4時間を学習に費やす生活を6ヵ月間続けるとすれば、それは約100時間に相当し、準備には約10時間、つまり2週間を費やすべきである。
プロジェクトの規模が大きくなるにつれて、この割合は減少する。たとえば合計で500時間から数千時間の学習を計画している場合、必ずしも50~数百時間の準備が必要になるわけではなく、全体の5パーセント程度の時間になるだろう。
ここでの目標は、すべての学習上の選択肢を洗い出すことではなく、代替案を検討せずに、単に最初に見つけた学習法や教材に飛びつかないようにすることだ。
たとえば私は、「MITチャレンジ」〔入学しないまま、MIT4年分のカリキュラムを1年でマスターするプロジェクト〕を始める前に、すべての教材をくまなく調べた。学習を開始する前に、一般的な学習方法や資源、および各種ツールの長所と短所を把握しておくことをお勧めする。
また、長いプロジェクトになるほど、脱線したり遅れが発生したりする危険性が増えるので、最初に適切な準備期間を取ることで、その後の時間を大幅に節約できるようになる。
・収穫逓減の法則
メタ学習に関する調査は、プロジェクトを始める前に行う一度限りの活動ではない。学習を行う中でも、調査を続けるべきだ。
多くの場合、学習を始める前には障害や機会が明確にならない。そのため「再評価」の実施は、学習プロセスにおける重要なステップである。
たとえば、私は「写実的なデッサンが30日で描けるようになるプロジェクト」にチャレンジしたとき、「スケッチして比較する」という手法から得られる効果が次第に減っていることに気づいた。
そこで私は、さらに上達するためにはより良いテクニックが必要だと考え、準備の第2ラウンドを実施し、ウィトルウィアン・スタジオが提供している似顔絵教室に通った。
そこでは、もっと体系的な方法を詳しく教えてくれたため、私の似顔絵の正確さは大幅に向上した。
最初の準備段階では、このコースは目に入らなかった。それは自分で開発した手法の欠陥に気づかなかったからである。
調査をいつまで行うかという問いに対する、より洗練された答えは、「メタ学習から得られるメリット」と、「実際の学習から得られるメリット」を比較するというものだ。(「メタ学習」については連載第3回参照)
これを行う方法の1つは、準備にさらに数時間を費やし(より多くの専門家にインタビューする、より多くのオンライン上の資源を検索する、他に活用できる可能性のある学習法を調べるなど)、それから自分が計画した学習法に基いて、実際に数時間学習してみるというものだ。
そして、それぞれの作業を行った後で、2つの活動の相対的な価値を簡単に評価してみるのである。
もし、メタ学習の調査が、学習そのものに費やす時間よりも価値が高いと感じた場合は、より調査を行う方が有益な段階にいる可能性が高い。追加の調査があまり役に立たないと感じた場合は、現時点の計画を採用する方が良いだろう。
この種の分析は、「収穫逓減の法則」として知られる理論に基いている。これはある活動(この場合はより多くの調査)に費やす時間が増えれば増えるほど、理想的な状態に近づくため、活動から得られる利益が減少することを意味する〔収穫逓減とは経済学の用語で、生産に必要なインプットを増やしても、それによって生産が増加する量が次第に頭打ちになることを指す〕。
メタ学習の調査を続けていると、いつかはその価値が学習そのものから得られる価値を下回るため、その時点で学習に集中すれば良い。
ただ現実には、調査から得られるリターンは一定ではなく、大きく変化する。何も成果が得られずに数時間費やした後で、上達を促進する効果のある完璧な資源を発見できるかもしれない。
いくつもの学習プロジェクトを経験すれば、この点を直感的に判断できるようになるが、「10パーセントルール」と「収穫逓減の法則」を使えば、どのくらいの準備をいつ行うべきかについて適切な見積もりを行うことができる。
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(本原稿は、スコット・H・ヤング著『ULTRA LEARNING 超・自習法』〈小林啓倫訳〉の内容を編集・加筆して掲載しています)