今や世界中で不足が騒がれるマスクなどの医療物資。欧米の感染者急増で、中国ではマスクや体温計などの製造バブルが起きているが、不良品が出荷されたり、不当に価格を吊り上げて売ろうとする業者が後を絶たないなど、大混乱の様相を呈している。(ジャーナリスト 姫田小夏)
マスクを巡る
欧州と中国の攻防
マスク、防護服、人工呼吸器は、今や国民の生死を左右する三種の神器だ。新型コロナウイルス感染者数が1万3696人(4月2日現在、世界で第12位)となっているオランダは、これらが深刻に不足している。
ところが、盟友であるはずのEU各国は自国の救済で精いっぱい。そこにロシアメディアがこんな提案をささやいたという。
「オランダの半導体露光機と中国のマスクを交換してみてはどうか?」
オランダには世界最先端の半導体露光機を生産するASML社があり、独占的地位を築いているのだ。
一方、世界は半導体の製造プロセスが世代交代を迎えており、中国はこれを進める上で欠かせない露光装置を喉から手が出るほど欲しがっている。今年1月に、オランダがこれを中国に納入する予定だったが、米国に阻止されたという経緯がある。
マスクと半導体製造装置の交換は、背に腹は代えられぬオランダに対するブラックジョークにすぎない。だが、1枚数十円程度の使い捨てマスクが、一国の存亡にかかわる国家戦略物資になったことを十分に示唆するものとして、見逃すことができないジョークでもある。
世界のマスク生産の5割は中国に集中している。翻せば、先進国はそれまで「中国で生産させておけばいい」という程度にしか思っていなかったことの証左だ。先進国は今、マスク不足に青ざめ、調達に血道を上げている。
医療大国のドイツがマスクなど医療用品の輸出禁止令を出すと、域内からの入手を絶たれたEU各国は中国からの調達に乗り出した。最近ではLVMHが4000万枚の輸入を確保したことも話題になった。フランス一国だけで10億枚のマスクを中国に発注したとも報道されている。
ウイルスの発生や感染拡大に関して中国に批判的だった欧米諸国が、今度は助けを求めている。その中国は感情を押し殺し、むしろ国際世論の操作の好機ととらえ、ウイルス発生国の汚名返上を狙った”マスク外交”に出た。
だが、早くもオランダは中国からの不良品を返品した。中国の電子メディアによると、3月第4週に中国から到着したN95のマスク130万枚のうち、46%に当たる60万枚が不合格だったという。顔にフィットせず、濾過機能が低いという理由から、オランダ政府は残りのすべても処分すると発表した。またスペインでは、中国製の検査キットのエラー率の高さが問題となり、チェコでは購入したウイルス検査キットの70%が不良だったことが報道された。