マーケット環境に関わらず求められる「ファイナンス思考」
小林:投資対効果は、どんな局面でも最大化すべきものです。ヒト・カネ・モノといった経営資源のリターンは常に意識すべきものですが、冬の時代においては、夏とは違った感度で、意識し直す必要があるのだと思います。
朝倉:冬になると、よりキャッシュの重要性が増します。だからこそ、既存事業から資金を創出できるかどうかが、会社ごとの差となって表れるのでしょう。資金が創出できていたら、将来に向けた投資資金にも余裕が出てきますし、資産の最適配分も余裕を持って練ることができる。結果として成長のチャンスも高まります。
基本中の基本ですが、経営者が事業を通じて着実にキャッシュを創出することができるかどうかが、より問われるということなのだと思います。
小林:資金を正しく使える経営者の方が、資金を有効活用できて有利であるという直接的な効果の他に、新たな資金提供を受けやすいという効果もあると思います。
エクイティ/デット共に、資金提供者は、経営者の資金に対する感度、事業を通じてキャッシュを創出し、さらに的確に配分できるかどうかを、より厳しく見るようになります。そういう意味でも、「B.資金の創出」、「C.資産の最適配分」をより強く意識することが重要です。
朝倉:冬の時代には、得てして起業家以上に投資家のほうがリスクに対してセンシティブになるものです。保守的な投資家に納得して資金を提供してもらうためには、キャッシュを創出できているかどうか、最適に配分できているかどうかを、実績を通じてきちんと説明できる必要があるということですね。
村上:夏の時代であれば、多少、ファイナンス面の規律が粗くても、なんとかなりやすいという側面はあるのでしょうし、より強気な姿勢が事業を押し進めることもあります。むしろ冬の時代にこそ、キャッシュを有効に使って事業・企業の価値向上に結びつけるファイナンスへの感度がより重要になるでしょう。
朝倉:ファイナンス思考は決して、市況が好調な夏の時代に限った話ではありません。これまでに挙げたファイナンスの4つの機能は、夏だろうが冬だろうが、マクロ環境に関係なく、本来はしっかり意識すべきことだと思います。
ただ、冬の時代に移ってキャッシュの希少性が高まっているのに、「今まではこれでもよかったから」と、夏服のままで厳冬期に突入すると、思惑から大きくズレた結果になりかねません。それだけ、投資家から見ても、また事業家から見ても、投資判断における水準が上がるということであり、求められるファイナンスの感度が高まるということでしょうね。
*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:藤根茉由子、代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2020/2/29に掲載した内容です。