20世紀になってインフルエンザは3度、世界的に流行した。

 1918年からのスペイン風邪では、当時の世界人口12億人に対し感染者は6億人、死者は4000万人から5000万人に及び、日本でも39万人が死亡した。

 1957年のアジア風邪、1968年の香港風邪による世界の死者も多い。

 21世紀に入ってからも、新型インフルエンザ、SARS、MERSに続き、今回の新型コロナウイルスが短期間の間に発生し、世界中を恐怖に陥れている。

 このように、感染症は人間にとって手ごわい相手だ。ウイルスは目に見えず、新しい感染症は、ワクチンも治療薬もない。

 とりわけ現代はグローバリゼーションが進み人の移動が急増したことで、世界に拡散しやすくなり、感染のスピードが早くなっている。これからも新しい感染症が現れることが懸念され、人類の感染症との戦いは続く。

輸入依存でマスク不足
医療が安全保障に直結

 だが、日本は外国に比べ、「医療安全保障」の意識も体制も弱い。

 国民の生命・健康を守ることが国家の最大の任務だ。

 今回、マスクが不足して社会問題になっているが、背景に中国からの輸入に8割を依存していたことがある。

 新型コロナウイルスの感染が拡大すると、中国はマスクを国家応急備蓄物資に指定し、国内に供給するため、マスクの輸出を禁止した。米国は医療用マスクの輸出を制限し、これに反発するカナダともめている。

 コロナでは医療関係物資が国家の戦略物資となった。

 さらに中国は国内で新型コロナウイルスを制圧できる見通しができると、イタリアをはじめ120カ国以上にマスクや人工呼吸器を提供する「マスク外交」を進め、国際政治面での影響力を高めようとしている。

 今や医療が国益と国益がぶつかり合う安全保障の色彩を強くしている。

 感染症などの脅威から国民を守る「医療安全保障」が、「軍事安全保障」「経済安全保障」と並んで、国家の存続・繁栄に直結するようになった。

 米中は「医療覇権」を巡る争いを始めている。医療は単なる公衆衛生の問題としてではなく、安全保障問題としても国家を挙げて取り組む必要がある。