雇用調整助成金の利用が
現実的ではない理由

岡村隆史発言に風俗店幹部が怒る理由「あんた何にも分かってない」Aさんは時間をかけて、風俗業の現実を語ってくれた Photo by Ryuko Sugimoto

 利用客と女性の感染リスクを考慮すれば、今は休業するべき――Aさんはそう経営者に訴えたが、即座に却下された。理由のひとつは、全面的に休業すれば経営が立ち行かなくなる恐れがあること。もうひとつの理由が、「働いている女性をどうするのか」だった。

風俗業界では一般的に、女性が風俗店に「在籍」していると表現される。この表現だと、女性が何らかの契約に基づき店に所属しているイメージを持ちがちだ。実際には女性は風俗店との間に雇用関係がないことが大半。このため店舗が休業して失業状態になっても失業保険は受給できないし、そもそも解雇にすら当たらない立場だ。

 今回政府は、従業員に休業手当を払う企業への雇用調整助成金について、性風俗関係の業種も対象にすると明らかにしている。だがAさんは、風俗店による雇用調整助成金の利用は非現実的だと指摘する。

「制度を利用するには、女性たちが働いている事実を申請資料で示さなければいけない。ところが女性たちは、風俗で働いていると誰かに知られることを極端に嫌がる。休業手当を払うために必要と言っても、書類で自身の情報が漏れることは全力で拒否する」。チェーン内でも、女性たちが提出した個人情報はAさんしか閲覧が許されていない。それが外部に提供されるともなれば、風俗店で働く女性にとっては、多少の経済的利益を犠牲にしてでも回避したい事態だという。

 結果として女性たちは、感染リスクを負ったまま働き続けることを選ぶか、何の補償もなく店を去るかのどちらかを選ばざるを得ないのだ。