参謀は「知的な戦略家」ではない

 ただし、注意していただきたいことがあります。
「参謀」と聞くと、経営コンサルタントのような「知的な戦略家」をイメージするかもしれませんが、私の「参謀」のイメージはかなり異なります。むしろ、私は、昨今のビジネスの世界において、「参謀」の仕事のイメージが、「戦略立案」に偏りすぎているのではないかと懸念しています。

「参謀」とは、もともとは軍隊の中で生まれた役割で、『ブリタニカ国際百科事典』には、「軍の指揮官が用兵、作戦などの計画を立て、これを実行するにあたって軍の指揮官を補佐する将校」とあります。

 つまり、参謀には、「用兵、作戦などの計画を立てる」すなわち「戦略立案」と、「戦略実行の補佐」という二つの役割があるということです。

 そして、「戦略立案」と「実行」の二つはどちらも重要ですが、企業経営の現場で汗を流してきた私からすれば、より重要性が高いのは間違いなく「実行」です。なぜなら、どんなに優れた戦略でも、実行されなければ「絵に描いた餅」にすぎないからです。実行なき戦略は、「戦略」と呼ぶに値しないのです。

 しかも、「実行」は「戦略立案」よりも難しい。
 たしかに、戦略を考えるのは決して簡単なことではありませんが、しっかりと現状分析をして、ロジカルに考え抜けば、「答え」は必ず見えてくるものです。「SWOT分析」「コア・コンピタンス分析」など、そのために有効な思考ツールもたくさん開発されています。必要であれば、社外の経営コンサルタントの力を借りてもいいでしょう。

 しかし、その戦略を「実行」しようとすると、そこには分厚い壁が立ちはだかります。会社は「生身の人間」の集まりであり、現場は、理屈だけでは説明できない無数の要素が複雑に絡み合っています。理路整然とした「戦略」を現場に落とし込もうとしても、思ったように実行されることなどありえないのです。

 もちろん、経営サイドが「権力的」に戦略を押し付けても、現場は明確な反発を示さないかもしれません。しかし、一方的なやり方に反感をもった現場はサボタージュという形で反応するかもしれません。最悪の場合には、経営と現場の信頼関係が壊れてしまうこともありえます。「実行」には、そのようなきわめてデリケートな問題がつきまとうのです。