米中対立の間に唯一入れる
日本に課された2つの役割

――このように米中が対立するなかで、日本が果たすべき役割はあるのか。

 これから日本がやるべきことは2つある。

 1つは、これまでアメリカが支えてきた国際秩序を維持していくことだ。日本だけでできる話ではなく、特にインド太平洋地域で、強権的な中国と内向きなアメリカを懸念する諸国の連携役となる必要がある。オーストラリア、インド、韓国、そして「海のASEAN」と呼ばれる、ベトナムやインドネシアなどの中国と領有権争いを抱えている国々だ。すでに日本には重要な経済パートナーだが、より関係を深める必要があるだろう。

 また中東・東欧も含む欧州諸国との連携も重要だ。欧州は、中ロ連携の負の影響や、国際秩序の崩壊に危機感を持っている。これらの秩序を支えるのは現実的にはアメリカの軍事力であることは変わらないが、ネットワーク形成により、内向きになっているアメリカの負担感を減らしていくことが重要だ。究極的には、既存の国際秩序から利益を受けている中国が、協力するような方向に誘導することが望ましい。

 このような構想は、かつて日米がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)にその役割を期待したものだが、アメリカが離脱した今、回り道が必要になっている。日本は、アメリカ抜きのCPTPPを形成してアメリカの復帰を待っているが、それが今後の日本の役割のひな型になる。米中どちらとも関係を切り離せず、世界3位の経済大国で、それなりの軍事力も持ち、東南アジア諸国とも関係が良好な日本の責任でもある。

 もう1つは、かつてTPPで構想したように、日本が、アメリカの関係者とともに現実的な対中戦略を考え、アメリカの行動に影響を与えることだ。

 今後、米中関係がどうなるかは、アメリカのシンクタンクにいる優秀な専門家でも、読み切れていない。トランプ大統領の行動も、11月の大統領選挙の行方も、不確定要素が多いからだ。

 そうしたなかで、ワシントンDCの戦略コミュニティーの頭脳と、日本の専門家がタッグを組んでより建設的な対中戦略を考えることに意味がある。これまで日米同盟が強化されてきた中で、日米間の知的なネットワークは着実に形成されている。日米共通の対中戦略形成には、日本のインド太平洋諸国とのネットワークも有用となる。こうした日米の戦略形成については、アメリカの対中デカップリングへの情報取得のためにも、産業界が積極的に関わるべきだ。それにより、早期のリスクヘッジができ、うまくいけば、日本にとって有利なルール形成ができる機会にもなる。

 日本は転換期の米中の間にいる。厳しい状況ではあるが、両国に対して前向きな影響力を行使し、日本の生存と繁栄を担保し、自国の付加価値を高めていく機会にすべきだ。