『グラフのウソを見破る技術 マイアミ大学ビジュアル・ジャーナリズム講座』は、米国マイアミ大学で人気のビジュアル・ジャーナリズム講座をベースに書籍化された現代人のためのグラフ・リテラシーの入門書です。コロナ禍のニュース等を通じて、さまざまなスタイルのグラフを目にした人も多いはず。政治、気候変動、健康問題から映画の興行収入、ハリケーン進路の予想図…誰でも知っているさまざまなテーマの最新のデータを使って、ニュースをからめながらさまざまなグラフを読み解くための基礎知識を身に着けていきます。驚くことに、その多くにグラフの読み手を誤解させる仕掛けが潜んでいることに気づかされます。グーグルやEUで教えるインフォグラフィックスの世界的エキスパートがグラフ・リテラシーのノウハウを初公開! そのエッセンスをコンパクトに紹介します。
正しく描かれているのに、理解しづらいグラフがある
たとえグラフが正確にデザインされていたとしても、私たちが正しい読み方を知らないばかりに、だまされることもある。記号や、いわゆる文法がわからないからか、それらの意味を誤って解釈するからか、あるいはその両方だ。多くの人が思っているのとは違い、ほとんどの良いグラフはシンプルできれいな図ではないし、簡単に、直感的に理解できるものでもない。
2015年9月10日、ピュー研究所はアメリカ国民の基礎科学の知識を調べるためのアンケートを公表した。問題の一つに、次の図のようなグラフを解読せよというものがあった。それでは解読してみよう。間違っても大丈夫。
この種のグラフを見るのはもしかしたら初めてという人もいるかもしれない。これは散布図と呼ばれる。点は国を表しているが、どの点がどの国かを知る必要はない。横軸における点の位置は、1人当たりの1日の砂糖消費量と一致する。つまり点が右に寄っているほど、その国の人々の砂糖の消費量は平均的に多い。
縦軸の点の位置は、1人当たりの虫歯の数と一致する。したがって、点の位置が高いほど、その国の人々の虫歯の数は平均的に多い。
あるパターンに気づくだろう。例外はあるが、概して右寄りの点ほど高い位置にある。これを2つの測定値の間の、正の相関と呼ぶ。国レベルで見て、砂糖の消費量は歯の健康悪化と正の相関がある(このグラフだけを見て、砂糖をたくさん食べると虫歯が増えることは証明できないが、その点については後ほど取り上げる)。負の相関というのもあり、たとえば教育水準の高い国ほど通常は貧困率が低い。
散布図は、誰もが小学校で習う棒グラフや折れ線グラフ、円グラフと同じくらい古い歴史がある。それなのにこの調査では、ほぼ10人に4人(37%)が正しく理解できなかった。これは問題の出し方や、そのほかにも原因があったかもしれないが、そうだとしても私の印象では、科学の世界では当たり前で、ニュースメディアの常連にもなりつつあるグラフを読解できない人が世の中に大勢いるという証のようだ。