にもかかわらず、前述のように、このアプリに暗雲が漂っています。それはなぜでしょうか。たとえば、日本よりも先行してアプリが公開されたドイツでは、多くの自由主義者がこのアプリのダウンロードをためらっている様子です。

 そういった人たちは「アプリが信用できない」と言います。そしてこの発言は、本質的にはアプリを開発した善意のボランティアに向いているのではなく、政府に向けられているのです。

いいアプリのはずなのに……
利用者の胸をよぎる不安とは

 そのような状況下で、日本では今週中にも「接触確認アプリ」がリリースされることになります。先述したように1国1アプリの方針が示された後、日本向けアプリの開発はボランティア集団が担当しながら、工程管理部分を厚生労働省が発注する形となり、最終局面で国が関与したプロジェクトへと形式が変わりました。

 そこで冒頭のように、安倍首相や菅官房長官が「国民の6割が利用することが大切なので、ぜひ使ってください」と声を大きくしてアピールしている現状が、私には逆にこのアプリの普及に対してマイナスに働くように思えて仕方ありません。

 その理由は、ひとことで言えば政府の支持率の低さです。何事においても、「丁寧に説明します」「何も問題はありません」といった答弁をしながら丁寧に説明してくれなかったり、あとから次々と問題が発覚したりするのが、現内閣の実情です。実際、本稿における説明のほうが、政府よりもはるかに丁寧なはずです。

 本当はいいアプリだとしても、政府が推奨すればするほど、多くの国民は「中国のように政府に監視されてしまうのではないか」という疑念を禁じ得ない状況にあります。そして、もし普及しなければどうなるかというと、おそらく政府が数百億円の普及予算を確保して、「○○協議会」なるものに普及キャンペーン事業を委託することになるのではないかと、国民は政府を疑っています。

 本当はこのアプリは政府が推進するのではなく、都道府県知事に普及の役割を権限移譲し、東京、神奈川、千葉、大阪、福岡といった知事たちのリーダーシップに任せたほうが、普及するのではないかと思えます。そしてこのままでは、ボランティアで頑張ってくれたエンジニアたちの努力が無になるか、予算に群がる大企業の餌食になりかねないということを、私は心配しているのです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)