感染症医を増やすことへの手当てがなされなければ人材の増員は困難だ

――平時に感染症の専門家をどう育てるかという問題については。

 抗菌薬や抗生剤によって感染症が死の病ではなくなり、スペシャリストでなくてもみんな治せるのが常識になった。感染症以外のことをやっていても感染症は治せるという認識が広まった結果、感染症専門家はマイノリティーになってしまった。

 少し前までアレルギーはアレルギー専門医でないと治せなかったのが、今は誰でも治せるようになっている。このように、医師全体に対してある分野のレベルを上げる取り組みをするのも専門医の仕事です。感染症は、内科以外でも耳鼻科も眼科にしても産婦人科にしても、どこでもそこに付随する感染症はあるわけです。全身の問題だから。だからどんな医師でも一定のレベルの感染症の知識は持っていなければならない。それを教えて全体の底上げを図る仕事をするのが感染症のエキスパートです。だからそのエキスパートを育てなければならないし、そのエキスパートが、今回のような “火事”の時に飛んでいけるような体制にしなくてはなりません。

――今後、感染症医は増えるのでしょうか。

 どうかな。そうなってくれるとうれしいし、後押ししたい気持ちもあります。この状況をどういうふうに若い人が思っているのかは、正直わからないですね。命懸けでやらなければならない診療科とそうでもない科、どちらを選ぶかは学生のモチベ―ションによって異なりますよね。ただ、感染症科は命懸けのイメージがあるかもしれないが、ちゃんとその実態を理解しておけば感染の危険は少なく、怖がるものではない。

 病院側も、感染症医を増やしたくとも人材がいなかったり、配置することへの手当てなされなかったりする状況ですね。感染症医はコンサルテーション(他科の相談)が多く、院内をラウンドしたりするサービス科的なところがある。そういう部分の評価がなく「〇〇科はベッドの占有率はどのくらいで、外来の稼ぎはどのくらい」などの経営指標で比較すると、感染症医はマイナスのイメージしかなくなってしまいますよね。