「より動く人」がより幸せを感じ、ストレスも少ない
経歴はまったく違うのに、チャールズとマークがよく似た運動プロトコルをほぼ同じ理由で勧めていることは興味深い。いや、彼らだけではない。ビル・シアーズ博士の考えも同じだ。神経発達と育児について30冊以上の著作があり、世界的に著名な80代の博士が運動の専門家だと知ったら、驚く人がいるかもしれない。
シアーズ博士は講演のために訪れたシンガポールで美しい温室植物園を見学した。そこでは最高レベルの管理が行われていたにもかかわらず、驚くべきペースで展示植物が枯れていく問題で困っていた。管理責任者がついに見つけた原因は、植物は動けないのに温室内ではつねに送風機が稼働しているということだった。植物を動かせるようにスペースを工夫したところ、植物は問題なく育ちはじめた。
博士はこのエピソードを通して、人間の健康についての基本的な考え方を説明する。人間の成長には、食物、水、日光だけでなく、身体の動きを刺激してくれる環境も必要だということだ。
それがどんな方法であれ、意識して身体を動かせば、神経の生成(新しいニューロンの誕生)・保護・再生、細胞の維持、シナプスの可塑性、新たな記憶の形成と保持といった効果が連鎖的に生じる。
さらに、動くことで人間は幸せにもなれる。その最大の理由として考えられているのは、身体を動かした刺激でエンドルフィンが放出されるからだ。ギャラップ社の「健康および生活満足度指標」によると、少なくとも週に2回運動する人は、そうでない人よりも幸せだと感じる割合が高く、ストレスを感じる割合が低い。
認知という作用はおのずから神経系を形成していく。認知機能を強化したければ、動きを増やさなくてはならない。その点に疑問の余地はない。問題なのは、身体を動かす頻度と強度だけである。
(本原稿は、『シリコンバレー式超ライフハック』〈デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳〉からの抜粋です)
シリコンバレーのテクノロジー起業家、バイオハッカー。ブレットプルーフ360創業者兼CEO。シリコンバレー保健研究所会長。バイオハックの父と呼ばれる。ウォートン・スクールでMBAを取得後、シリコンバレーで成功するも肥満と体調不良に。その体験から、ITスキルを駆使して自らの体をバイオハック、世界トップクラスの脳科学者、生化学者、栄養士等の膨大な数の研究を総合し、自己実験に100万ドルを投じて心身の能力を向上させる方法を研究。自らもIQを上げ、50キロ痩せたその画期的なアプローチは、ニューヨークタイムズ、フォーブス、CNN、LAタイムズ等、数多くのメディアで話題に。ポッドキャスト「ブレットプルーフ・ラジオ」はウェブ界の最高権威、ウェビー賞を受賞するなど絶大な支持を誇る。著書に『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』『HEAD STRONGシリコンバレー式頭がよくなる全技術』(ともに栗原百代訳、ダイヤモンド社)など。
栗原百代(くりはら・ももよ)
1962年東京生まれ。翻訳家。早稲田大学第一文学部哲学科卒業。東京学芸大学教育学修士課程修了。訳書に『相性のよしあしはフェロモンが決める』(草思社)、『レイチェル・ゾー・LA・スタイル・AtoZ』(メディアパル)、『啓蒙思想2.0』『反逆の神話』『資本主義が嫌いな人のための経済学』(NTT出版)、『しまった!』(講談社)など。