地球は今「人間の星」になっている
――では、絶滅しそうな生き物たちは、どうすれば地球で生き残れるんですか?
今泉 残念ながら、絶滅しそうな生き物たちは、人間から逃げて、自分たちが生き延びられるニッチな環境で、ほそぼそとやっていくしかありません。
地球の大部分には人間の手が入り、あたかも「人間の星」のようになってしまっていますから。
ホッキョクグマが絶滅しそうなのも、温暖化で北極の氷がとける時期が長くなってしまったから。彼らは氷がとける夏には狩りができないので、夏が長くなると、ほぼ絶食状態で痩せ細って死んでいきます。
人間がこの地球を自分たちにとって住みやすい環境に変えた裏側で、ほかの生き物にとっては生きにくい環境になってしまっているんですね。
でも、振り返ってみれば、恐竜の全盛期には、僕らの祖先だってほそぼそと生き延びていたんですよ。その時、哺乳類は恐竜に見つからないよう地下に身を潜めて、夜だけこっそり行動していたんです。
人間の祖先はモグラです。
哺乳類は夜しか行動しなかったから、色覚は退化してしまいました。だから、恐竜と、その子孫の鳥類は赤、青、緑に加えて紫外線まで見えるのに、サルの仲間はもともと青と緑の2色しか見えませんでした。
でも、恐竜が滅びた後、青と緑に加えて赤も見えるサルがたまたまいて、彼らだけが森の中で赤い木の実を見つけて食べることができた。これもまた、より多くの食料にありつけるかどうかという効率の事情で、結局は赤も見えるサルが生きのびて進化し、引き継がれた遺伝子が今の僕たちです。
だから、人間が今見ている景色なんてものは、鳥に言わせればいまだに霞んだ状態のままなのかもしれません。
「人間の星」は脆い
――新型コロナウイルスの問題も、地球が「人間の星」になったから起きたのでしょうか?
今泉 そう言わざるを得ないでしょうね。
前編でもお話ししたように、この地球上に存在する生き物の種というのは「食う・食われる」の関係でつながり、木目の細かい膜のようなものをつくって地球をすっぽりと覆っています。
だから自然界にはひとつも無駄なものなんてありません。
今回のような人間にとって恐ろしいウイルスだって、もともともは森の中でひっそりと影を潜めて暮らし、適度にその周辺の生き物を殺しながら、生態系のバランスがよくなるような調節弁の役割を果たしていたのです。
ウイルスは、学者によってはあれは生物ではない、という人もいますが、「死ぬ」という表現を使う以上、僕自身は生き物だと思っています。ウイルスは一番単純な生き物で、命の核だけで生きていて防御物質を持たない、非常に弱い存在です。
弱いからこそ、むしろ人間のような脅威とは無縁の場所でじっと静かに生きているのに、そこを人間が「ちょっとくらい大丈夫」とむやみに切り開こうとするから、厄介なことが起きるのです。
今回の新型コロナウイルスも、センザンコウという、これも絶滅の危機にある野生動物にたまたまくっついていたものが、たまたま出てきて広まったのだと言われています。
ウイルスは、生物の本質としてただ増えようとするだけなのに、ひとたび密集して暮らしている人間にくっつくと、一気に感染が広がってしまうのです。
これが家畜への感染であれば、人間の手によって家畜を全頭殺処分することでウイルスを根絶できるのですが、人間が人間自身にそんなことをするわけにはいきません。だから今、世界中に次々とウイルスが広がり、大変なことになっているわけです。