不安を見せず、「勝ち筋」を指し示す

――新型コロナ禍という混迷の状況にあって、リーダーにはどのような心構えが必要だとお考えでしょうか?

新型コロナの混乱をチャンスに変えチームを飛躍させられるリーダーとは?(後編)吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)
リフレッシュコミュニケーションズ代表
コミュニケーションデザイナー・人材育成コンサルタント・リーダー向けコーチ
成城大学卒業後、大手旅行会社を経て学校法人へ転職。広報リーダーになるも、「怒ってばかりの不器用なコミュニケーション」で職場を去らなければならない羽目になり、外資系専門商社に転職。その後、ポイントを絞ってわかりやすく伝える方法を駆使し、営業成績を劇的に改善。社外でもコンサルタントとして活動し、2011年1月に独立。現在は経営者・中間管理職向けに、人材育成、チームビルディング、売上改善の方法を中心としたコンサルティング活動を行い、累計受講者数は3万人を超える。

伊庭 自分なりの勝ち筋を作ることです。「コロナ前の状況に戻ったら……」と待つのか、この新しい状況をチャンスととらえて攻めるのか。リーダーならチャンスととらえないといけません。自粛期間中にオンラインで新しいサービスを始めて成功した人もいます。どんな状況でも「勝ち筋」は見出せます。

 最近、私のところには、人事部からだけでなく役員からの研修依頼が多いんです。それは、経営層がこの状況をチャンスととらえて新しい勝ち筋を見出そうとしているから。そのためにこの研修をやっておきたい、という投資的な発想なのだと思います。

吉田 アフターコロナは今までと全く異なる環境になると考えた方がいいですね。それは全員が同じスタートラインに立つということでもあり、チャンスなんですよね。

 会社によってはボーナスカットやリストラなどの厳しい状況に陥っているところもありますが、それを受けて「やばいよね」なんてぼやいているリーダーはよくない。反対に「大丈夫、大丈夫」「頑張ろう」などと根拠のない精神論を言っても、部下からは信用されません。

 じゃあ何をすればいいかというと、適切な情報開示です。特に、安心材料となるような情報、将来の希望につながるような情報をできるだけ仕入れて、与えてあげることだと思います。適切な情報開示で、不安を抱えているチームメンバーを鼓舞して、導いてあげることが現場のリーダーの大切な役割です。

伊庭 そうですね。私が大切だと思うことは、役割を演じきることです。たとえば今なら、自分が不安を感じていたとしても、「これさえやっておけば大丈夫」と堂々と言い続けることです。『ライフ・イズ・ビューティフル』という第二次世界大戦下のユダヤ人迫害を描いた映画があります。親子が強制収容所に入れられてしまう話なのですが、その時お父さんは子どもを安心させるために、「これはゲームなんだよ」と言い続けるんですね。すると、悲惨な生活もゲームのように思えてくる。

 私もサラリーマンで管理職だった時に、リーマンショックなどで大変な目に遭いましたが、部下を心配させないために、リーダーを演じきりました。今回のコロナ禍でもリーダーは役割を演じきるべきです。「これさえやれば勝てる、乗り切れる」と言い続けることです。演じることに対してお給料をもらっていると思ってもいいくらいです。

吉田 「コロナで不安だな」というそぶりを部下に見せるべきではありません。もし愚痴を言い合いたいなら、同じ立場のリーダー同士で集まってやればいい。ただその場合も、愚痴を言って終わりじゃなく、ポジティブな方向を見出してほしい。ウィズコロナ、アフターコロナに備えて、いろいろな企画を考えるというのもその一つです。

伊庭 星野リゾートの星野佳路社長は、ウィズコロナの施策として「マイクロツーリズム」を提唱しています。自宅から1時間圏内でいける範囲を観光する、小さな旅行のことです。そういった主張も、言い続けることで、共感してくれる人がどんどん増えていきます。それが旅行業界の大きな流れになるかもしれません。どんな業界にあっても「勝ち筋」を見出すことがリーダーの役割だなと痛感します。