ビジネスは垂直統合したほうが、仕入れ値が安くなったり、
原価が下がるので有利(田所)

起業家が事業家へと脱皮する過程で、<br />必ずやらなければいけない<br />たった1つのこととは?田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、事業創造会社ブルー・マーリン・パートナーズのCSO(最高戦略責任者)、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)がある。

平田 ちなみにさっきのお話ですけど、その国に参入するときには、もうM&A前提で入っていくみたいな感じですか?

十河 M&A前提で入ろうとしている国もあります。

平田 最初は、コンペティター同士というケースもあるっていうことなんですよね。例えば、タイとかは?

十河 正直、すごい競合を買収したというケースはないんですよね。自分たちでやっていない事業で、ただ領域は同じですという会社ですね。例えば、インフルエンサーマーケティングの事業でいうと、プラットフォームの事業、マッチングの事業を僕らはやっていたんですよね。でも、YouTubeのMCN(マルチチャネルネットワーク)やUUUM(ウーム)みたいなユーチューバーのマネジメント業はやっていなかったですと。そこをタイの会社で取りに行ったので、要は、どちらかというとパートナーというか、彼らのユーチューバーもうちのプラットフォームを使ってタイアップ広告とってくれたりとかしていたので。そういう意味でいうと競合というよりは、こちらからお金を払ってやってもらっていたという関係でした。

平田 なるほど、垂直統合系ですね。

田所 ビジネスは垂直統合したほうが、当然仕入れ値が安くなったり、原価が下がるから有利ですよね。

十河 そうですね。インフルエンサーマーケティングという領域で、またシェアを取れるなと思ったので、だったら、やらない理由はないよねというので、そこを取りに行きました。

田所 なかなか日本では資金調達して、垂直統合型でやるみたいな発想って、できないと思うのですけど、それって前職のマイクロアド時代に、そういう戦略性みたいなのが培われたんですか?

十河 正直、そこまではないですね。M&Aに関しては起業してから学んだことです。ジャフコさんとか、いくつかの投資家さんや株主にアドバイスしていただきながら、「やれるんじゃないか」という案件があったのでチャレンジしてみたら、うまくいった。それで、やり始めているという感じですね。

田所 そうだったんですね。

十河 最初は、日本でいいM&Aの案件が一つあって、それを自分たちでやったらうまくいったんです。それで、PMI(M&A後の統合プロセス)のやり方が「こういうふうにやればうまくいくんだ」というのが自分の中である程度分かりまして。「こういうパターンの会社の場合はこうだなと」。それで、日本でうまくいくんだったら、タイでも香港でも、インドネシアでもどこでもうまくいくんじゃないかと。経営陣は、みんな心底そう思っているので。それで、実際にやってみてうまくいっているから、M&Aはどういうディールでいくのか、PMIをどう回していくのか、みたいなところはすごく解像度を高く持ちながらやっています。

田所 平田さんの会社は、今回、大型調達が無事にクロージングしたのですか?

平田 そうですね。たぶんこの記事が出る頃には、もうリリースが出ていますが、三十数億円です。

田所 その辺の会社のショッピングリスト的なものは、あったりしますか?

平田 ありますね。僕らの領域だと、DMP(データ管理プラットフォーム)とかCDP(顧客データプラットフォーム)領域で組むと、よりクライアントに価値が提供できたりします。意外にDMPとかって、大きいところでも1社ぐらいしかなくて。でも、その会社は市場規模はあまりないので、プライシング的にも抑えられるな、という。やっぱり海外へ行ったときにどうやって面を取るのかというと、例えば、現地のDMPっぽいプレーヤーとかは、今リサーチをかけています。意外に外から見ていたときよりも現地に行って見たときに、「あ、こっちのほうが普及しているんだ」みたいなところもあるので、スピード感をどう持ってやっていくかは、すごく意識していますね。

田所 僕は、たぶん1・10までが起業家で、10・100は事業家、投資家だと思っています。ソフトバンクの孫正義さんがいろんな企業にポートフォリオで投資していますけど、まさに縦横軸にグリッドを描いて、それでオセロの四隅をどうやって取って、非連続的な成長を遂げていくのか、みたいなところが大事なのかなと。その辺もお聞きしたいのですが、十河さんに関しては、M&Aをやりながら手探りでやっていっている、みたいな感じですか?

十河 そうですね。

田所 今、十河さんの想定としては、ナスダックなどのグローバルIPOですか? それとも国内で?

十河 上場の場所はどこでもいいのかなって、正直思っています。もともとミーハーなところもあるので、創業期は米国に行ってメジャーリーグに挑戦だ、みたいなのがあったのですが。ただ、今は上場の場所やステータス関係無く、そのビジネスがイケてたら投資家は集まってくると思っています。僕らの強みって、絶対どこでも通用するビジネスとかプロダクト、テクノロジーをグローバルで展開できるところだと思うので、そこのビジネスの本質を忘れずやっていきたいですね。

田所 平田さんの会社はどうですか?

平田 うちは、なるべく潜れるだけ潜りたいと思っています。去年まで、いい意味でも悪い意味でも、2期連続黒字化を達成してしまって、もともと立ち上げた当初はIPOにこだわっていたわけじゃなかったのです。2年で20億ぐらい行って、次にメガ市場を目指すサービスをまた作ろうという構想でした。ただ、会社の成長とともに自分の器も成長させてもらって、やっぱりこのITという数少ない成長産業の中で、外貨を獲得する日本のスタートアップ、ベンチャーってすごく少ないよねっていうところが、社会的な日本の抱える課題だなと思っていまして。

田所 そうですね。

平田 BtoB領域って、時間をかけて行動量を上げるとなんだかんだいって売上が立つじゃないですか。でも、BtoCだと、やっぱりタイミングや勢いをどう捉えるかがすごく大事だと思うんです。であるならば、やっぱり後輩の起業家とか、将来の日本のためにも今チャンスがあるんだったら、時間をかけてでもアジアマーケットを全部とったところが、基本的にはグローバルシェアナンバーワンって名乗れる領域なので、そこをやりきりたいと考えていますね。

つづく