苦しいかどうかを、判断基準の中核にするな
キム 僕は神様を信じているわけではありませんが、苦難にしても、逆境にしても、運命がそういうものを与えたときは、やっぱりその人がそれを克服できるキャパシティがあるということを、わかった上で与えていると思うんです。だから、苦難であればあるほど、厳しい逆境であればあるほど、克服したときの成長の度合いというのは大きい。成長は苦難に比例するんです。それ自体が、人生ではないか、とある意味で超然とするというか、開き直ることが大事だと思っています。
これができたとき、人間は、自分がコントロールできない、不確実なものについて、何ら不安も持たないし、怯えたりもしなくなる。また、起きた後にも、成長の確信を得ることができると。
白取 それこそ、雑用が雑用ではなくなるんですよね。今までは、くだらない雑用だと思っていた、こまごましたことが、くだらないものではなくなる。くっきりとした形が見える。これは、苦難の経験でなくても、できるようです。例えば、瞑想を通じても同じ。禅僧の苦行も同じ。インドのヴェーダもそう。
僕の場合は、介護でそれが見えた。面白いところに行くんですよ。青い空が見えてくるというか、見てるものと自分が一体になる感じ。こんなこと、しゃべってるだけじゃわかんないと思うけど(笑)。苦難から逃げていると、これは味わえない。だから一度、真正面から本気で引き受けたほうがいいんです。
みんなが苦しいことを恐れていますね。だから、そこから逃れるための脅しが次々に登場することになる。美容、アンチエージング、保険、年金、投資…。みんなそうでしょう。「あなたはこんな不安から逃れたいでしょう。だからこうしなさい」という商品を売っている。恐怖や妄想を煽る商売がいっぱいある。そして、損をしたりする(笑)。
でも結局、苦しみから逃れることはできないんですよ。本当は、不安や苦しみとしっかり対峙したほうがいいんです。それをやらないと、煽られっぱなしでお金を取られ続けることになる。根本から、不安や苦しみと向き合わないと。
キム 精神性の高い人は、苦難が訪れても、これは成長のチャンスだ、と思う。もっと境地の高い人になると、成長ができるなら、と苦難を自ら選択できる。一見すると、非合理、不合理に見えるものが、結果的には大きな成長をつかんでいる。そういうシーンは実は多々あるんですよね。苦難や逆境を乗り越えたときの成長イメージが明確に頭の中にあれば、挑戦することができる。いつ死ぬかわからないのに、険しい山を登る冒険家の精神は、そういうものではないかと思うんです。
白取 思えば仕事を選ぶときには、いつもしんどいほうを選びますね。そのほうが、たぶん面白いと思うから。
キム しんどいかどうか、が判断基準の中核ではなくなる、ということですよね。そうすることで、本当に正しい選択ができるようになる。自分の志を貫ける、ということですね。
(後編に続く)
【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】
四六判・並製・256頁 ISBN978-4-478-01769-2
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