100%の自信を持って説明責任を果たす

藤野 奥野さんが目指す運用の理想像って何ですか。

奥野 まずは「強靭な会社」を選ぶことですね。ただ、強靭な会社を選んだとしても、時間の経過と共に変化していくことも分かっています。参入障壁だって徐々に崩されていくでしょうし、経営の外部環境も変化していきます。だから、投資した会社をきちんとモニタリングしながら、その会社の強靭さが失われていないか、きちんと企業価値を増やすことができているのか、をチェックしています。
そういう企業の株価って、昨年のような上昇相場で派手に上がることはないんですけど、今回のような下落相場では下がりにくい特徴があります。それは、米中貿易摩擦の時もそうでしたし、リーマンショックでもそうでした。結果的に、マーケットが下げたとしても、パフォーマンスの低下を最小限に抑え、マーケットが上昇している時は、それにある程度、ついて行けるような運用になっています。ただ、いくら強靭な会社に投資したとしても、短期的な運用のパフォーマンスは、ある程度マーケットの動きに左右されますし、当然のことですが良い時もあれば悪い時もある。もちろん、常に良いパフォーマンスを実現させるために努力を重ねているわけですが、私が考える運用の理想像は、良いパフォーマンスの実現だけでなく、やはりアカウンタビリティー(説明責任)にあると考えています。私たちが運用しているファンドを通じて、私たちのお客様である投資家に、信越化学工業やウォルト・ディズニーのような本当の意味で強い会社のオーナーになっていただく。そこで私たちが出来ることは何かというと、たとえば信越化学工業で今、どのような事業が展開されているのか、本当に競争優位が保てているのかということを、ファンドを持って下さっている投資家の皆さんに対して包み隠さず、ロジカルに説明することに尽きます。つまりアカウンタビリティーを全うできるかどうかという点こそが、アクティブファンドの運用には問われると思うのです。この点については100パーセントの自信を持って、私たちは出来ると言い切れます。それは今までもやってきたことですし、これからも続けていきます。常に高いパフォーマンスを上げることは難しいのですが、私たちは100パーセント、強靭な会社にだけ投資していることを表明するのと同時に、その会社がなぜ強靭なのかを投資家の皆さんに対して証明し、報告する。これが私の中にある運用の理想像です。

藤野 どれだけいい会社を探して投資できたとしても、マーケット全体が下げると、そういう会社の株価も下げますからね。高パフォーマンスだけを唯一無二の理想像にするのは、運用者として自分の首を絞めることにもなりかねません。

奥野 藤野さんのレオス・キャピタルワークスは4月からSBIグループに入りましたが、経営的には何か変わりましたか。

藤野 何も変わりませんよ。ひふみ投信も、ひふみワールドも運用については完全に任されていますし、SBIからも「今まで通り思い切ってやってくれ」と言われているので、とにかく少しでも良いパフォーマンスの実現を目指して全力で頑張るだけです。なぜSBIなのかですが、今まで親会社だったISホールディングスは第2位株主として残っているので、ここからのサポートは今後も受けられますし、今後10年を見据えた時、インターネット金融関連事業を展開するSBIグループと組むことによって、レオス・キャピタルワークスにいろいろなシナジー効果が期待できるという判断が働きました。さらにITやAIも活用したきめ細かいお客様対応やロボアドの導入、商品の拡充、ベンチャーキャピタル業務への展開などを考えており、これらの実現を後押ししてくれるパートナーであると確信しています。

コロナ危機でファンドマネージャーはどう動いたのか藤野英人×奥野一成「教養としての投資」対談(後編)
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社)など。