「水のテスラ」を生んだ起業家が
作り出したい「未来」とは
――今後、どのように展開していきたいとお考えですか。
我々は2030年に、自律分散型の水循環社会を実現すると掲げています。
水の利用量に対して、水資源が追い付かない国や地域があります。今後、人口増により、そのような国や地域がますます増えるでしょう。2025年までに40億人を超える人が水不足に苦しむともいわれています。
解決策には、普段利用する淡水の量を増やすという案もあるでしょう。海水から塩分や不純物を取り除き、淡水にする技術がその一つです。ですが、排水の塩分濃度が高まるため、周辺の環境負荷が大きくなってしまう。その点、再生利用のほうがよいと考えています。
構想段階ではありますが、2023年から25年の間に、ある都市や地域において、自立分散型のまったく新しい水処理事業を始めたいと考えています。
太陽光発電用パネルやバッテリーを家庭で購入して電気を発電し、蓄電できるようになったように、水も各家庭で再処理可能な仕組みをつくりたい。それこそ、家電のように一般の人でも手軽に購入でき、10年以内に回収できるような水インフラを実現したいのです。
――「水のテスラ」ともいえますね。なぜ、そのような構想が描けるのでしょうか。
もともと、私は四国の山奥の集落で育ちました。そこは都市のような公共上下水道が整備されていない地域で、山のわき水を利用して暮らし、汚水や生活排水は合併処理浄化槽を用いていました。
本来は、人口の数や密集度、自然条件等によって、多様な水インフラのあり方があるはずで、住民もそれを選択できたほうがいい。ですが、現在はそのようになっていません。
水道インフラの維持に多額の財政資金を投じ、地域によっては水道管や浄水場の改築・更新もままならない状況です。半世紀を超える整備期間をかけ、100兆円以上の税金を投入したのに、投資回収できていないのです。
電気は選べる時代になったのに水は選べないというのはおかしくないでしょうか。実際、視野を広げると多様な水供給の方法があるのにもかかわらず、です。
水処理の世界において、これまではデータがあまり重要視されてはきませんでした。そのため、我々が新しい分散型の水処理事業を興し、データドリブンな世界を実現していきたいと思います。
我々のセンシング技術やAIで水インフラを最適な形で構築することができれば、規模の経済を働かせて、限界費用を下げられます。今後、より多くの選択肢を提供できると思います。
20世紀型の都市設計は、区画を整理して、道路を敷設し、その下に水道管を通してきました。もしそのインフラが不要となれば、街の風景も生活様式も大きく変わります。人々に安心を届け、人と水のあらゆる制約がなくなった未来をつくっていきたいのです。