経営者の円滑なバトンタッチに向け、社内で「フラグが立つ」仕組みづくりを

朝倉:最初からルールを導入しておくと言うか、「どのような場合にどのような人がCEOになる」かといった仕組みを埋め込んでおくということですね。

小林:はい。外圧による選解任は「禍根」とまではいかなくても、いろいろと思うところのある人が出てくるでしょう。社長自身が急にディフェンシブになってしまうケースもあるかもしれません。

そうではなく、社長自身が積極的に、どのような要件の人を、どのようなプロセスで後継者に選ぶべきか考えることができれば、長期的な経営ビジョンを社内に浸透させられるのではないかと思います。

朝倉:経営者交代のタイミングと適任者について、「フラグが立つ」ような仕組みを、あらかじめ作っておく必要があります。

小林:まさに、フラグが立つような仕組みです。一定条件を満たせばシステマチックに経営者をいきなり変えるというのはさすがに無理があると思いますが、「こういう状況になったら考え始めます」というきっかけが決められているだけでも、全く違ってくるのではないのでしょうか。

朝倉:「今の体制のままで良いのか」を再点検するきっかけを仕組みとして埋め込んでおくということですね。

小林:おっしゃる通り、経営体制の見直しをする仕組みを作っておく。仕組み化しておけば、経営者交代の議論に触れそうな話題・イシューをタブー視する必要もありませんし、会社にとって重要な要素である「経営者の適性」について議論されないままになる、という事態も避けられます。取締役会を中心に、きちんと議論できる機会をつくるだけでも、大きな意義があります。

社長が社外取締役を選解任している日本の実態

朝倉:社外取締役による経営陣の選解任の話に戻りますが、日本で、実際に起こっているのはその逆で、社長による社外取締役の選解任なのではないかと思います。

小林:なるほど。

朝倉:例えば、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の要件を満たさなければいけない、自分たちで社外取締役を探してこなければならない、といった必要に直面した際に、社長としては当然、「どういった人なら引き受けてくれるか」「一緒にやりやすい人を選びたい」といった視点で探しますよね。

また、役員は株主が決めていると言っても、実態としては取締役会で採択されたことを株主総会で追認しているに過ぎません。株主総会で動議が提出され、「この人を選任しよう」と役員が代わることって、まずあり得ないじゃないですか。

小林:ほぼないですね。

朝倉:そういう意味で言うと、今の日本では、実態として見られるのは、社内の取締役による、もっと言えば、社長による社外取締役の選解任、というケースではないかと思います。

ただ、経営状況が悪化して、役員の選解任のようなシビアな決断をしなければならない必要に迫られた際、常勤取締役と社外取締役が「仲良しこよし」のお友達クラブでは、本来の責務は果たせないんじゃないかと思います。