IBM:社外取締役主導の経営者指名プロセスが奏功

小林:次の例は、IBMです。少し遡りますが、ルイス・ガースナーの時代です。

朝倉:『巨象も踊る』の著者、ガースナーですね。

小林:はい。ガースナー以前のIBMはハードウェアビジネスが中心で、完全に低迷していました。強烈なターンアラウンドが要求されるタイミングだったと言えます。

朝倉:メインフレームビジネスからの転換ですね。

小林:はい。「ここでトップを代えなければならない」という危機感はボードにもあったようですが、業界には何となく「テクノロジー分野の人を選ぶだろう」という雰囲気が漂っていたそうです。

そんな中、IBMは社外取締役が中心となって特別指名委員会のような組織を設けたのですが、そこに加入したジョンソン・エンド・ジョンソンの会長アレックス・ゴースキー氏が、「IBMにはどのような経営者が相応しいか」をリサーチするプロジェクトを提案しました。

特別指名委員会のメンバーがIBMのステークホルダーに意見を聞き、今のIBMに何が求められているのかを調査・検討したところ、「テクノロジー強化ではなくビジネス改変であろう」という結論に達しました。そこで白羽の矢が立ったのが、ガースナーです。

朝倉:ガースナーは、元々、RJRナビスコ会長兼CEOだった人物ですね。「お菓子を作っていた人間に何が分かる」と揶揄されながらの就任だったそうです。

小林:はい。1993年、IBM初の外部招請の会長兼CEOに迎えられたガースナーは、ソフトウェア事業の路線を一気に転換しました。一度、ものすごいリストラも断行したのですが、その後は計画的に人員を増やし、ソフトウェアカンパニーに変化することで、業績が回復しました。そういう意味で、IBMはボードが中心になって会社を生まれ変わらせた、特筆すべき例と言えます。

エス・エム・エス:創業者主導の経営承継による継続成長

小林:最後の例は、日本のエス・エム・エスという会社です。こちらは自発的な経営承継の事例ですね。

朝倉:諸藤周平さんが2003年に創業された、介護・医療系のインターネット関連サービス事業などを手掛けている会社ですね。

小林:以前、我々のサイトでもインタビューに応じていただきましたが、その際に諸藤さんが仰っていたのが「自分がこのまま経営を続けるのではなく、誰かに引き継がなくてはならないのではないか」という思いです。

2014年に代が替わった後も、エス・エム・エスは非常にパフォーマンスが高く、株価も業績も伸びています。まさに、非常にうまく経営の承継ができたケースです。

バトンタッチを内発的に進めるか、外圧を受けて動くかというのは当然、両方のパターンがありますが、ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)の考え方に基づけば、代替わりの仕組みは本来、最初から会社に組み込まれている方が望ましいのではないかと思います。

コーポレートガバナンス・コードにおいても、「取締役会は、最高経営責任者等の後継者の計画について適切に監督を行うべきである」ということが書かれており、企業が主体的にサクセッションプランを策定することを求めています。