知らないことは「素直に聞く」

成功している人の真似をしても、それだけでは9割成功しないのはなぜ?
高橋誠一(たかはし・せいいち)
三光ソフランホールディングス株式会社 代表取締役社長
1945年、大宮市(現さいたま市)生まれ。東京電機大学電気工学科卒業。1974年に三光不動産株式会社(現三光ソフランホールディングス)設立、代表取締役社長就任。現在、三光ソフラン(株)代表取締役会長、メディカル・ケア・サービス(株)代表取締役会長、(株)財産ドック代表取締役社長、全国賃貸管理ビジネス協会会長、(財)日本賃貸住宅管理協会副会長など、様々な役職を兼任。2004年に、不動産事業の振興に多大な貢献をし、関係団体の役員として業界の発展に寄与したとして、「国土交通大臣表彰」受賞。2006年には、建設・不動産・賃貸管理・介護事業の功績により、「黄綬褒章」を受章。さらに2016年には、「旭日双光章」を受章。

山下:高橋会長は、最初はご実家のお米屋さんを継がれたのですよね?

高橋:そうなんです。埼玉県の大宮市で、父が米屋を営んでいました。継いだときは1店舗しかなかったのですが、私が43店舗まで増やしました。

埼玉で一番のお米屋になったものの、自分が持っている将来の構想とは少し違うと感じて、27歳のとき、「不動産業をはじめるぞ」と決意したんです。

山下:どうして不動産だったのですか?

高橋:家は、世の中で一番高いものだからです。だから、「家」を売ってみたいと。28歳で宅地建物取引主任者を取り、29歳で米屋を社員に引き継いで、30歳から不動産業に参入しました。

不動産屋さんで見習いをした経験もなく、まっさらなところからのスタートでした。本当に無知だったもので、「住宅ローン」という言葉を、お客様から聞いてはじめて知ったんです(笑)。

お客様に向かって「知らない」とは言えませんから、銀行へ行き、窓口の担当者に「すみません、住宅ローンって何ですか?」と聞いたこともあります(笑)。私ひとりしかいない会社なので、他に聞ける人がいなかったんです。

窓口の担当者は私の名刺を見直して、「あれ? 社長さんですよね? 社長なのに知らない?」と不思議がりましたが、私が正直に「教えてください」と頼むと、丁寧に一から教えてくれました。

そのときの経験から、「分からないことは『分からない』と言ったほうが、相手の人は一所懸命に教えてくれる」ことを学びました。半端に知ったかぶりをして、「ここまでは分かっているんですけどね」という態度だと、相手も「教えてあげたい」という気持ちは持てなくなってしまいます。

けれど、「何も知らないから、教えてくれませんか」と頭を下げれば、丁寧に教えてくれる。素直になったほうが、知識を吸収するスピードも速くなるので、良いこと尽くしですね。

山下:たとえ少しは知っていることでも、「はじめて聞いたかのように聞く」という姿勢が大切なのですね。

高橋:知っている部分があったとしても、自分の勘違いかもしれないわけですからね。相手が言ったことは、そのまま受け入れておくんです。

すべて聞いた上で、「本当にこの人が言ったことは正しいのかな?」と感じたら、翌日また銀行へ行って、違う人に同じことを質問する。そこで同じ答えが返ってきたら、「この知識は万人が共有している正しいものなんだ」と分かります。疑うべきではないのですが、確かめることは必要ですね。

山下:第1回に出てきた「信じるな、疑うな、確かめろ」ですね。

高橋:そうです。その言葉の本当の意図は、「それが正しいか正しくないか、自分で確かめてこい」ということです。

確かめずに人の言ったことを鵜呑みにするのは、素直ではあるけれど、危険がともないます。行き違いや事故、問題を引き起こす原因になりかねない。

仮に問題が起きたとき、鵜呑みにする人は、「自分はあの人が言った通りにしただけだ」と、教えてくれた人を責めてしまいがちです。けれどそれは、確かめなかった自分が悪い。だからこそ、「信じるな、疑うな、確かめろ」が重要なのです。

(第5回に続く)