逆に言えば、それさえきちんとできていれば、よほど無茶苦茶な内容でない限り、それなりに納得してもらえることがほとんどなのである。こう話すと、「それは小野さんが環境に恵まれていたから言えることだ。まったく部下の話を聞かない上司や、自分の常識以外を一切認めず全否定して会話にならない取引先にはそんなやり方は通用しないはず」と言う人もいる。一理あるかもしれない。

 だが、「あのキーマンを説得するのは無理」という状況でも、相手の言い分をしっかり受け止めれば、話はスムーズに進むものだ。そんな事例をたくさん見てきた。

キーマン説得の実践テクニック

 キーマン説得型の対話は、とてもインタラクティブ性の強いものだ。サイズも形も違い、かみ合うはずがないように見えた2つの歯車を、削って形を変えたり、位置を変えたりしながら綺麗にかみ合わせる行為なのだ。

 言いたいことを一方的に言う。反対意見が出てきたら、攻撃的に反論する。こんなことをしてはいけないのだ。

 加えるなら、言われたことを「おっしゃる通り、その点はとても重要だと思います」というスタンスで相手の意見をまず尊重して聞く。そのうえで、相手がおそらく知らないであろう情報を付加するとなおよい。

 例えば「最近読んだ本にこんなことが書いてあり、かなり興味深かったのですが、いまご指摘いただいた内容を踏まえると、この件はこんな解釈もできると感じました」などと、新しい情報を付加する。相手の言っていることを深く理解している姿勢を示すのだ。

「こいつ、面白いな」と相手に思わせた後に、「それで、ご指摘も踏まえると今回のプロジェクトはこんなふうに位置づけられるかと思っています」と伝える。すると話もスムーズに進む。

 これは、ベンチャー企業で投資家から出資を募るときであっても、大企業で自らが新規プロジェクトを経営陣に承認してもらうときであっても通用するやり方だ。キーマンに意思決定をしてもらうためのコミュニケーションの極意は、「受け止めてから話す」だ。