遠距離通勤のストレスで健康を損なうのは、ギュウ詰めの電車で運ばれる日本特有の現象と思っていたが実はそうでもないらしい。この5月に、米国の予防医学専門誌に報告された研究によると、自動車通勤であっても片道10マイル(約16キロメートル)以上の遠距離通勤は血圧を上げ、15マイル(約24キロメートル)以上になると体重と腹囲が上昇するという。

 研究の対象者はテキサス大都市圏に住む約4300人。うち8割は男性。プロフィールを見ると教育水準の高い中流の郊外族で喫煙者は1割程度、飲酒もほどほど。BMIも26前後と米国人にしてはまあまあ。取り立てて健康を損なう要因は見当たらない。それにもかかわらず、なのである。研究者は「遠距離通勤者は中等度~強度の運動をしない傾向があり、エネルギーの消費量を低下させる」という。それが結果的に肥満や腹囲に跳ね返ってくるのだろう。調査対象のダラス─フォートワース地域は自動車文化のメッカであり、行き帰りの殺人的な交通渋滞も血圧上昇の一因のようだ。

 米国の通勤事情を一概に日本に当てはめるわけにはいかない。しかし国内の研究でも、通勤時間が長いほど睡眠障害や代謝性疾患のリスクが上昇する、との報告が多い。ある総合電機メーカーの健保組合調査では、通勤時間が長いほど運動時間が減少する傾向が認められている。「仕事が忙しいから運動ができない」ではなく「通勤に時間が取られるから」が正しいようだ。こちらの交通手段は電車などの公共交通機関と自転車、徒歩など。通勤時間が30分以内のグループでは運動時間が増えることが示されている。公共交通機関で都心まで30分以内というと、23区在住でようやく、といったところ。東京ならずとも大都市圏ではハードルが高い。そのため同メーカーでは、週1回からの在宅ワークへの切り替えを推奨している。

 米国型の自動車通勤と日本型通勤とでは事情が違うとはいえ、長距離通勤が運動不足を助長するのは世界的な傾向らしい。ワークライフバランスの見直しというと大げさだが、自宅と職場の距離を真剣に考えてもよさそうだ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド