企画は引き算である
一般に「企画は引き算」と言われます。
その企画の面白さをより分かりやすくするために、余計な部分を削っていくことで、60点の企画を70点にも80点にもできる。
しかし、結果を出したいと焦っていた当時の僕はとにかく面白くしなければと必死で、自分の考えた企画に面白さが足りないのではないか、もっと足さねば、と、むしろ企画とは関係のない変なセリフを加えることでプラス5点、ストーリーに意外な変化を加えてプラス10点と、間違ったプラス志向で追加点を狙おうとしていたのです。
昔、撮影中のこと。とあるシーンで、最終的には一つのセリフしか使わないわけですが、何種類もセリフを試していると、タレントさんがウンザリして、「どうしてこんなに撮らなきゃいけないんですか!」と、場が緊迫したことがありました。
僕がタジタジしていると、ディレクター(監督)がタレントさんにこう言ったのです。
「15秒のCMでは、2・5秒のセリフは全体の6分の1ですよね。90分の映画で言うと15分なわけです。
15分も変わったら映画の印象が変わるように、CMはセリフ一つが変わるだけでガラッと面白くなることがある。だからいろいろ試したいんです」
それを聞いてタレントさんは納得。僕は感動。
が、グルインで中高生の表情が物語っていたのは、僕が企画においてその逆をしていたということでした。
CMはわずか15秒だからこそ、関係ないものが一つ入るだけで、ガラッと全く分からないものになる。
コンテでは成立しているように見えても、自分の頭の中では辻褄が合っていても、他人には全くついて来れないものになってしまう。
「面白い」は「足せるもの」ではない。「足す」と「よく分からない」となる。「面白い」の対義語は「よく分からない」だったわけです。
それにしても、ここまで自分の企画が分かりにくいものだったとは、ショックでした。
たまたまグルインで発覚したことでしたが、別の仕事でも同様に、面白さを足そう、と企画していた。
全てが分かりにくく、スベっていたのか。ゾッとしました。
視聴者の生の声を聞く機会があまりなかった。というよりも、僕が焦るばかりで聞く耳を持っていなかったのではないか。
グルインの部屋で繰り返される「よく分かりません」。
寒い空気の中、一人発言権もなく黙って中高生の言葉を聞いていると、分かりにくいものは絶対に面白くならないのだと骨身に沁みた。
そして、普段の社内の打ち合わせがいかに温かいものであったかと胸が痛くなったのでした。
社内でも僕は聞く耳を持っていなかったことに気づかされたからです。むしろ、上司や同僚を「敵」と思っていたからです。
1968年、広島県生まれ。東京大学農学部卒。博報堂クリエイティブディレクター/CMプラナー。
主な作品に、日本コカ・コーラ「ファンタ」=ACC賞グランプリ2005受賞、U H A味覚糖「さけるグミ」=ACC賞グランプリ・カンヌライオンズフィルム部門シルバー・TCC賞グランプリ2018受賞、森永製菓「ハイチュウ」、永谷園「Jリーグカレー」、コンデナストジャパン「GQ Japan」、エムティーアイ「ルナルナ」、福島県「TOKIOは言うぞ」など。コミカルで独自の世界観を持つ作風で知られる。宣伝会議コピーライター養成講座の講師も務める。著書に『面白いって何なんすか!?問題』(ダイヤモンド社)。
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