ポストやSO、待遇先行型の採用はお互いに不幸にしかねない
朝倉:ここまでは主に、人を選ぶ段階での失敗例について考えましたが、続いて、採用自体はできたものの、処遇面で間違えてしまうといったパターンについても考えましょうか。
小林:初期にSO(ストックオプション)を配り過ぎてしまった例は、多くのスタートアップで見られますね。
朝倉:実績のある人物を迎えたいがために無理にポストを作ってしまうケースもよくあります。会社にも事業にも興味関心を持ってくれているし、是非来て欲しいが、それなりの役職・待遇を用意しなければ入社してもらえそうにない、ということでポストを新設してしまうパターン。
しかし、組織に必要な機能を冷静に検討した時に、本当にそんな人物が必要なのかと言えば、そうではないことがままあります。新たにポストを用意したものの、既存組織との業務範囲の分担が整理できていなかったり、会社のフェイズが早すぎたりするがために、せっかく入社してもらっても力を発揮できる余地がない。迎えた人物がオーバースペックであるがゆえに、お互いに不満を募らせてしまう、といった例ですね。
村上:やはり経歴が光る人を採用・厚遇するときは期待値ギャップが大きくなりやすい。実績・経歴だけで優秀だと思い込みスクリーニングが甘くなる、その上、甘く評価した人物を厚遇してしまい、後々トラブルに発展する、というケースはよくありますね。
小林:そういった人物を、ひとまず社長付・社長室長といった現場ラインを持たないポジションに置き、オンボーディングをした上で、具体的なCXOレベルのポジションに据えるという対処法もあります。それ自体は否定しませんが、いつまでも曖昧なポジションのまま、現場から「あの人は何をしているのか」「高い給料をもらっているように見えるけれど、何のためにいるのかよく分からない」といった不満が出て、組織が崩れていく、というケースも見受けられます。
朝倉:こういった問題を避けるやり方の一つとして、最初からフルタイムで参画してもらうのではなく、パートタイムで、お互いに様子を見る期間を設け、うまく機能する感触が掴めれば、そこから徐々に巻き込んでいくというやり方もあると思います。
やや極端な特殊事例ですが、最初は監査役として関わっていたのに、気付けば執行側になっていた、という事例もありますよね。部分的に、段階的に巻き込んでいくやり方も一つだと思います。
「カルチャーフィット」を採用ミスの言い訳にしていないか
朝倉:スタートアップの採用失敗を振り返った際に、よく耳にするのが「カルチャーフィットがなかった」という要因分析です。採用した人物の能力は高かったが組織にフィットしなかった、という説明ですね。
「能力とカルチャーフィットで迷うことがあったら、カルチャーフィットを優先させよう」とはよく言われることです。これ自体は決して間違った考え方ではないと思いますが、採用の失敗を振り返るときに、深掘りせぬまま安易に「組織にフィットしなかった」という言葉で片付けているのではないかと感じることもあります。
経営者個人との相性が悪かったという場合も「カルチャーフィットの問題」で片付けているように思いますし、場合によっては、経営者の方にこそ反省すべき点があったのではないか、と思われることもあり得ます。
こういったミスマッチを繰り返さないためにも、「カルチャーフィット」という言葉に逃げず、もう一段階言語化して、反省点を捉えることが重要だと思います。
村上:確かに、カルチャーフィットを言い訳に使うケースは非常に多いですね。これでは学びがありません。振り返りが曖昧なままでは、採用前に組織への順応性を見極められなかったという問題をいつまでも解決できません。
カルチャーフィットが採用の成否を分ける重要な因子なのであれば、それを採用時にどうスクリーニングするかまで突き詰めて考えるべきです。カルチャーフィットという言葉は、個人的な相性の問題を多分に含んでいますから、成長のための採用戦略を考えるなら、ここは整理しなければなりません。
小林:経営者にとって重要なポイントですね。トップが自らの主観だけで問題を顧みるのは難しい場合もありますが、逃げずにそこを見つめていくことが採用、ひいては組織・事業の成功につながるでしょう。