スタートアップが警戒すべき王者の競合模倣戦略

朝倉:スタートアップでは、自社プロダクトのUI変更を行うと、翌週には競合プロダクトにそっくりそのまま模倣されるといった事態も起こります。真似された側からすれば、面白くない、と感じるのは無理もない話ですが、事業領域全体で見ると、そういった競争が市場を活性化し、パイが拡大するという側面もあるということですね。

小林:スタートアップが最も恐れるのは、ビジネス基盤が確立していて投資余力のある大手、強いプレイヤーが、模倣戦略を取ることです。

代表的な例は、ビジネスチャットツールにおけるSlack対Microsoftの構図ですね。Slackは、ビジネスチャットツールで十分優位なポジションを構築していたにもかかわらず、MicrosoftがTeamsで参入し、現在ではTeamsのアクティブユーザー数がSlackを越えています。

Microsoftが、自社のビジネス基盤を活用し、オフィスツールとの抱き合わせでビジネスチャットを一気に普及させるという、王者の戦略を取った例です。スタートアップから見ると、成長期にこういう競合が現れると強い脅威になりえますね。

村上:以前、参入障壁、”Moat”について話しましたが、参入障壁になりうる要素とは、模倣しづらいものであるはずです。一方で、先述した成長期・成熟期それぞれにおける模倣戦略や王者が取る模倣戦略について考えると、これはとどのつまり、模倣しやすいもの、つまり参入障壁として機能しないものを、市場内で模倣し合っている状態であるわけです。

そうなると、実際、最も開発力・資金力のある王者が、最も完全に模倣・再現することができ、他プレイヤーの競争優位性を無効化することができる。王者にとっては、模倣により、競争相手の競争優位性を無効化し、同時に自社の競争優位性を高めることができる。王者の模倣戦略とはそういう効力を持つものだということですね。

朝倉:王者の模倣戦略というと、やはりFacebookが挙げられるでしょう。彼らの戦略は明確で、新たなコミュニケーションサービスが出現したら、買収するか、徹底的に模倣する。

WhatsAPPやInstagramは、買収で内側に取り込み、今や自社プロダクトとして成立させています。一方、買収できなかったSnapchatに関しては、躊躇なくメイン機能を模倣し、そのまま自社プロダクトに反映するという戦略を取っています。セオリー的には「競合手に対して差別化戦略を取るべき」と説かれそうなところですが、彼らは徹底的な同質化戦略を取る。まさに王者の戦い方ですね。

村上:大手でM&A戦略を議論する際には、競合分析から入ることが多いですよね。

GoogleにしてもFacebookにしても、いま伸びている競合はどこか、という分析が経営戦略上の重要イシューです。

例えば先程の例で言えば「今、Instagramっていうのは伸びてきているが、うちはどうする?」という議論を欠かさずにしておく。そうすると大きな間違いは起きない。王者の経営戦略では、目配りする論点は多いものの、戦略を考える方法論は比較的シンプルだと思います。