イノベーションの拠点が
新興国に必要な理由

 本書の主張は二重の意味で、我々の持っていた従来のイノベーションの考え方に対するチャレンジとなっています。一つは、制約条件の厳しい新興国であるからこそ、まずその地でイノベーションを起こすことが大事であるという点。もう一つは新興国発イノベーションが先進国へ跳ね返ってくるという点です。

 新興国はかつて、先進国企業にとって生産基地の役割を担いました。その後、所得水準の向上に伴い、消費市場として注目されるに至りました。そして現在では、厳しい制約条件やその独特のニーズの存在のため、「先進国の常識にとらわれないイノベーション拠点」という役割を必然的に担いつつあります。だからこそ、先進国企業は発想と行動の大幅な転換が求められているわけです。

 日本企業には過去、グローカリゼーションで非常にうまく先進国市場を席巻してきたという成功体験があります。しかし、このリバース・イノベーションはまったく勝手が違い、多くの課題に直面します。それらを乗り越えるためには、何よりもまず、新興国市場に対しては過去の成功体験を捨て、新しいマインドセットに切り替える必要があります。

 研究開発やマーケティングなどの企業としての中核機能を担う部隊を新興国に置くことで企業の「重心」を移し、新興国の有能な人材を本国の人材と同じように活用できるよう、マネジメント・レベルの人材の多国籍化や処遇の世界共通化などにも取り組まなくてはなりません。また、不確実性の高い新興国市場において、試行錯誤を繰り返しながら学習するなどのアプローチも必要です。