日立製作所が22もの上場子会社を持つに至った理由は、この昭和の時代のメンバーシップ型雇用にあったわけで、もっと冷徹に従業員をリストラしていれば、競争力の低い事業会社を次々とつくる必要はまったくなかったわけです。
ジョブ型雇用はそのための準備のようなもので、1人1人の従業員が何のプロなのかをはっきりさせることから始めます。たとえば、「この従業員は航空機向け材料知識のプロ」「この従業員は自動車向け電線の商品企画のプロ」といった具合に、その人ができるジョブをはっきりとさせるわけです。
そのうえで、たとえば会社が航空機向け材料の事業自体を閉じることを決めたとしたら、「ジョブ」がなくなります。そうした場合、これがジョブ型雇用で成り立つ外資系企業だとすれば、人事部がその従業員を呼び出して、「あなたの仕事はなくなりました」と告げることになる。これがジョブ型雇用に移行した、冷徹な未来のあるべき姿です。
経団連が旗を振る
雇用変革の最先端事例となるか
つまり、これも特殊事情の中の特殊事情なのですが、「日本的経営はもうもたない」という前提で経団連がジョブ型雇用移行への旗を振る中で、その中心企業である日立製作所の最高幹部だった人物が、今年4月、日立金属のトップに降り立ってリストラの指揮を執る――。そのような特殊事情を、我々はどう見るのかという話に繋がるのです。
そう考えると、これから日立金属で起きることは一企業の特殊事情ではなく、経団連が変えようとしている日本的雇用変革の最先端かつ最初の大規模事例となる可能性が出てきます。今回の話は私の仮説ですが、十分あり得る話と言えないでしょうか。
最後にまとめると、このニュースはとても複雑です。あくまで赤字に陥った会社を企業再生するというニュースだと捉えるのか、そうではなく新型コロナの長期的な影響を受けた一般例なのか、はたまた日本の企業社会全体がどう変わっていくかを占う試金石だと捉えるべきなのか――。とても複雑な構造と込み入った前提が織り成す、とても重要なニュースだと捉えるべきです。メディアとしても、長期的にフォローし、追跡すべき大事件だと私は思います。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)