阪神ファンからとどろく「六甲おろし」
「歌ってるじゃねえか」と横浜ファン

 試合に戻ろう。実はこのゲーム、まれに見る接戦で、序盤はソトの2打席連続本塁打などで横浜が先行するも、転機は7回表の“ラッキーセブン”に訪れた。

 阪神の攻撃に移る前、横浜スタジアムのスタンドでは、スピーカーから通称「六甲おろし」、正式名称「阪神タイガースの歌」が極めて控えめの音量で流れた。コロナ以前なら、ファンは音楽と一緒にこれを熱唱し、黄色いジェット風船を飛ばすことになっていたが、感染予防のため禁止に。

 そこで阪神ファンは、ジェット風船の模様がプリントされたタオルを広げて左右に振ってエールを送った。阪神ファンの座席の近くまで行って確認したが、ほとんどの人がマスクをしているので口の動きまでは分からないものの、スピーカー以外から大きな歌声は聞こえなかった。

 阪神のホームである阪神甲子園球場での試合の帰りには、阪神電車の車内でも「六甲おろし」を熱唱するという独特の応援マナーを持っている熱狂的な阪神ファンでも、ビジター球場ではルールに従うらしい。

 と思いきや…。

 3対1で2点を追う阪神は、1死1・3塁から1番近本のライト前タイムリーヒットで1点を返した。すると、阪神ファンの座席からは、メガホンをたたく音に合わせた、明らかにスピーカーからの音ではない「六甲おろし」の歌声が。原曲のゆったりとしたテンポとは異なる素早いリズムで、チャンス到来の興奮ぶりがいや応なく伝わってくる。

 近本は盗塁にも成功して2・3塁とし、打席には2番糸原。「かっとばせー糸原」の声が聞こえる。声援に応えた糸原のタイムリーツーベースで、ついに3対4と逆転した阪神。ファンの座席から再び「六甲おろし」の歌声がとどろく。記者の周囲にいた横浜ファンは「歌ってるじゃねえか」と吐き捨てた。

 阪神ファンの座席の前には、紺色のウインドブレーカーを来た複数の球場スタッフが駆け出し、両手を上から下に振って、必死に何かを呼び掛けている。声を出して応援しないよう求めていたのであろう。お疲れさまです。

 阪神はこの回、3番マルテのレフト前タイムリーで3対5とした。だがその裏、横浜は6番細川のソロ、2番ソトのタイムリーで同点に追いつく。横浜ファンは恒常的に歌声や声援を上げることはないものの、得点の場面ではやはり、「わあー」「おおー」と歓声を上げていた。

 試合は結局9回裏、横浜の1番梶谷のレフト前タイムリーでサヨナラ勝ち。横浜ファンは総立ちで歓声を上げるのだった(下写真)。やはり、大声での応援を完全に止めることはできない。

横浜勝利の瞬間Photo by S.O.

 今回の実証実験は、国内でのスポーツイベントでの入場制限緩和に向けたデータ収集のほか、来年に予定されている東京オリンピック・パラリンピックでの観客動員の手法にも活用される見通しだ。最新の技術を駆使して分析したデータによって、どのような結論が導き出されるのだろうか。

 なお、試合終了後のセレモニーの後は、帰宅時の出口付近での混雑を避けるため、座席の位置に応じて退場規制が行われた。横浜スタジアムではコロナ前から、観客数が定員の50%に達した際に行っていたという。

 横浜のラミレス監督や選手のヒーローインタビュー、グラウンドでの打ち上げ花火の披露などが行われた。それに続いて、今期限りで引退する阪神の藤川球児投手がグラウンドを1周した際には、横浜ファンも総立ちになって手をたたき、22年間の現役生活の労をねぎらった。

 だがその後、記者のいた内野席下段は、退場が後回しになったので、しばし待機を強いられた。手持ち無沙汰な観客のために、冒頭で紹介したdianaのメンバーが、リボンを使った新体操や、バック転を披露して待機していた観客を楽しませていたのが印象に残った。

 こうした工夫の結果、帰りの京浜東北線の車内はガラガラでかなり空いていた。独自のアプリをダウンロードさせたり、大声を出しての応援の制限を呼び掛けたりした成果はまだ分からないが、退場規制の効果だけはよく実感できた。