ガリガリ君でおなじみの赤城乳業の発想法

 意外性のある氷菓子を発売する「赤城乳業」の例を考えてみましょう。主力商品の『ガリガリ君』(1981年発売)は、対比的アイディア発想という点から興味深いものがあります。

 ご存じのとおりソーダ味が基本形ですが、これまでに「リッチコーンポタージュ」(2012年発売)など意外な発想力でヒットを生んでいます。

 アイスキャンデーの起源自体が飲み物を凍らせてスティックを挿したものですから、冷たい飲み物であるソーダが味の基本ベースであることは不思議ではありません。

 オレンジ味やグレープ味などフルーツ系フレーバーもそうしたドリンクがありますから、アイスキャンデーのバリエーションとしては定番と言えます。

 ところが、「コーンポタージュ味」となると、飲み物ではなくスプーンですくう食べ物ですし、ふつう温かいものです。したがって、これをアイスにするのは相当な意外性です。

 それでもいくつかの類縁はあります。まず、冷製スープなどが存在すること。また、アイスキャンデー以前のかき氷はスプーンで食べていたということ。この類比(似たものとの比較!)ゆえに、つまり単なる当てずっぽうではなく、ぎりぎりセーフを狙ったのではないでしょうか。

 ラグビーで言えば、ぎりぎりライン内でプレー続行ということでしょう。事実、ヒット商品になったわけですから、トライに成功したわけです。第2章でもふれた、ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授のイノベーションの定義「一見、関係のなさそうな事柄を結び付ける」思考を想起させます。

 ただし「リッチナポリタン味」(2014年発売)では3億円の赤字を出したそうです。「冷製パスタ・冷やしラーメン」が存在するとはいえ……意外性という対極的対比の落としどころを考えさせられる事例ですね。

 ともあれ赤城乳業のキャッチフレーズは「あそびましょ」です。もちろん、先に見た意外性ある商品開発が「たわむれ・いたずら」だったはずはありません。

 無目的な、あるいは自己目的的な遊戯ではなく、常識や過去の成功事例・定番から“距離を置いた”ということでしょう。

「遊」は、「遊離・遊学・宇宙遊泳」からもわかるように、“もともといたところから離れる”ことが原義です。宇宙遊泳は母船やステーションから離れているから遊泳であって、たわむれどころか高度なミッションの最中です。

 したがって、赤城乳業の「あそびましょ」は、私には鮮明な対比宣言に見えます。

(本原稿は、『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』からの抜粋・編集したものです)