「KANBAN」が「フォード・システム」を一蹴する光景を目撃

 折しもトヨタ、ホンダ、日産の日本勢がアメリカの誇りであるビッグ3(GM、フォード、クライスラー)に挑み着実にアメリカの大地に根を下ろし、1990年代には安全性と品質、価格でビッグ3を圧倒する。しかも燃費経済性の強みを存分に発揮する日本企業のコンパクトカーのコスト競争力が、聞き慣れない「ジャスト・イン・タイム・システム」(「KANBAN」)にあることで、ひときわ注目を集めた。

 プライドの高い自動車経営者のみならずソフト、ハードの世界を超えて、好奇心旺盛なベンチャー企業家たちが大野の著書を貪り読んだ。ジョブズもゲイツもデルも「人間主導のKAIZEN」を掲げて疾走する、日本オリジナルの「KANBAN」を頭に刻み込んだ。

 彼らは、自動車王国を築き上げたアメリカの「クルマ愛好家たち」が日本車を喜んで受け入れる姿を目の当たりにした。「KANBAN」がアメリカ産業のシンボルである「フォード・システム」に取って代わる歴史的瞬間を目撃した。書物の底力を見る思いだ。

 ちなみに大野の『トヨタ生産方式』は日本で40数万部発行され、読み続けられている。翻訳は英文のアメリカ版を先陣に、ドイツ、イタリア、フランス、スペイン、中国、韓国、台湾と世界に広がる。

「論より実行」のマイケル・デル

 デルコンピュータを創業したマイケル・デルは試行錯誤の末、パソコンの「ジャスト・イン・タイム生産」に大転換して成功を収める。自著にこう記す。

「リアルタイムに思考する。単なる『ジャスト・イン・タイム』で満足するな。よけいな時間の有無で、機敏な存在になれるか敗北するかが決まる。サプライヤーとのコミュニケーションが改善されれば、必要なときに、必要なものを正確に入手できるようになる。今日では、ほとんどの業界で、わずかな遅れが致命的な遅れになる」(『デルの革命』日本経済新聞社、1999年)

 彼らは「経営における情報価値」をとことん問い詰める。「ものづくりに当たっては、注文という情報なしにものをつくってはならない」と喝破した大野耐一の先見性をマイケル・デルもビル・ゲイツも見逃すはずはなく、「かんばん(KANBAN)は情報である」ことを即座に理解し経営に活用した。

 デルは経験を理論化してみせた。すなわち、「情報量が多いほど、在庫は減る。在庫の多さは、情報の貧困を意味する。在庫を情報に置き換えることによって、顧客の注文を受けてから製品を顧客に届けるまでの時間(リードタイム)を限りなく短縮できる。その結果、不良在庫を限りなくゼロに近づけることが可能となる」。