未来は、アマゾンの動きの断片から読み取ることができる――そんな画期的な未来予測本が誕生した。アップルやグーグルをブランド評価で上回り、文字通り世界一のテクノロジー企業となったアマゾン。同社は巨大だというばかりではない。同様の大企業では類をみない年平均25%もの成長を続けていることは驚くべき事実で、このことは常に新しい分野に進出していることを意味している。そして、アマゾンが新たに進出した分野では、ライバル企業はその脅威に対抗すべく、アマゾンのビジネスモデルを研究し、自らのビジネスに取り入れている―ーさまざまな業界がまさに「アマゾン化」しているのである。『アマゾン化する未来:ベゾノミクスが世界を埋め尽くす』(ダイヤモンド社刊)は、フォーチュン誌のトップ・ジャーナリストがアマゾン内外を徹底取材して、コロナ禍でもさらなる大きな成長を遂げたアマゾンの秘められた内実に迫り、アマゾンのライバル企業がどのように対抗しようとしているかを探りながら、未来の世界を見事に描き出している。本記事では、同書から特別にそのエッセンスを抜粋していく。(小林啓倫 訳)

アマゾン化

「〇〇業界のアマゾン」を目指す企業が急増

 私はアマゾンの新しい企業モデルを、「ベゾノミクス」と呼んでいる。それはビジネスに対する私たちの考え方を破壊し、今後数十年の間に広く普及して、社会に大きな影響を与えるだろう。

 ビジネスの世界は急速に二分されつつある―現状維持を追求する企業と、自社内でAIスキルを構築し、顧客が何をしているか・何を求めているかに関する詳細な情報を大量に集めることで、自らの「ベゾノミクス」を打ち立てようとする企業である。

 後者の陣営に含まれるのは、アルファベット、アリババ、アップル、フェイスブック、JDドットコム(京東商城)、そしてテンセントといった企業だ。

 これらの企業群の中には、ゴールドマンサックスのような伝統的な企業の姿も見られる。ゴールドマンのリテール部門「マーカス」のトップを務めるハリット・タルワーは、2019年のカンファレンスにおいて、銀行業務のアマゾン化について「私たちの目的は、金融サービスの流通と消費に破壊をもたらすことです―アマゾンが小売業界に対して行ってきたこと、そして現在も続けていることと、ほとんど同じです」と語った。もちろん、アマゾン自体が、既に銀行業界の破壊に乗り出している。

 タルワーの言葉をまねしたかのように、ウーバーのCEOであるダラ・コスロシャヒも、彼らのライドシェア・プラットフォームが、交通業界のアマゾンになることを望んでいると語った―ビッグデータを活用し、食品の配送から、スクーターの共有サービス、支払いシステムに至るまで、交通のあらゆる側面を支配しようというのだ。

「私たちにとって車は、アマゾンにとっての本と同じです。アマゾンが本の裏側に途方もないインフラを構築し、ほかの分野に進出したように、ウーバーも同じことを達成します」。2019年末のウーバーの時価総額は520億ドル〔約5兆5000億円〕で、これはコスロシャヒのベゾノミクス追求が奏功していることを示唆している―今のところは。

 売上高で世界最大の企業であるウォルマートは、AIとビッグデータに多額の投資をすることで、この陣営に加わろうと懸命に努力している。同社は、昔ながらの小売業者が21世紀型のテクノロジー・プラットフォームに変身できることを証明しようとしており、戦いに備えて数十億ドルを投資している。

 一方で、アマゾンの脅威に対抗して、ニッチを守り、高度にキュレートされた体験と、アマゾンのマシンにはない人間味を顧客に提供する企業もある。ベストバイ、ウィリアムズ・ソノマ、英国のファッションEコマースサイトASOS、カルティエを所有するスイスの高級小売業者リシュモン、ドイツのEコマース大手であるオットーが所有するクレート&バレルなどがこの範疇に入る。スティッチ・フィックス、ワービー・パーカー、ルルズなどの、小規模ながら活気のある企業も同様だ。

 アマゾンの攻撃を受けずに残っている企業は、幸運にもこのAIの巨人が進出していない分野(重工業、法律、飲食、不動産)にいるか、アマゾンのローラーに押しつぶされるまでの時間を無駄にしているか、のどちらかである。果、ナビゲーションのミスや事故が発生する確率を抑制できるのだ。(つづきはこちらで)