『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

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[質問] 
 私は経済的に成功したいと思っています。しかし、他者の痛みをわからない成功者にはなりたくありません。読書猿さんが経済的成功と人格を両立させた成功者をご存じでしたら、教えてください。私淑したいのです。

そもそもですが、他人の人生はコピペできません

[読書猿の回答]
 あなたにお伝えしなければならないことはたくさんありますが、ここではそのいくつかしかお答えできません。多くをご説明しても、受け取ってはいただけないとも思います。

 まず成功者のマネをしても成功しません。他人の人生はコピペも接ぎ木もできません。さらに言えば、成功の大部分は(時代状況や環境を含んだ)偶然に依存します。道理の分かった成功者はこのことを理解しているので、子息に自分のビジネスを継がせるよりも、教育にお金をかけて専門職となることを勧めます。自分が得られた幸運を自分の子どもが得られるとは限らないと知るからです。

 次にあなたに「成功法」を教えると称する人たちは、本当はあなたを「養分」にしようとしているのです。この場合の「養分」とは、ギャンブルの胴元やアフィリエイトブロガーの収入源となることを示す侮蔑語(ネットスラング)ですが、ここでは自称成功者やオンラインサロン主催者を儲けさせる餌食となる人のことです。

 このことを教える「ポーランド人とユダヤ人」というエスニック・ジョークがあります。

ポーランド人はユダヤ人に金持ちになる秘訣を聞き出そうとする。
ユダヤ人はもったいつけて、しかしいくらかの金を出せば教えないでもないと言い、ポーランド人はいくらかを支払う。
ユダヤ人はうだうだ中身のないことを語りだしては途中で話を打切り、これ以上聞きたいなら更に払えと促す。
ポーランド人はまた金を払い、ユダヤ人はまたうだうだ話して打切り、更に払えと……というのを繰り返す。
とうとうポーランド人は怒り出し、お前の魂胆が分かった、うだうだ中身のない話をして俺から金を騙し取ろうというのだろうと、ユダヤ人を責め始める。
ユダヤ人はうなずいて曰く、やれやれ、やっとわかったかね、金持ちになる秘訣がどんなものか。

 最後に、起業家精神と道徳をどう調和させるかを論じた古典である渋沢栄一『論語と算盤』をご紹介しましょう。渋沢は600以上の企業を興した明治の実業家ですが、彼は商売に学問は邪魔になると信じられていた時代に論語を持ち出し、また相反するものと考えられがちだった金儲けと道徳の合一説を説きました。

 マックス・ウェーバーはフランクリンを資本主義精神のアイコンとしましたが、日本でこれに当たる人が渋沢栄一になります。

 これら二人の希代のアントレプレナーは、また極めて倫理的な人物でもありました。投資は彼らにとって倫理的な行為でした。儲けた金を自分の贅沢に費やす代わりに、未だ社会に存在しない、しかし必ずや必要になるだろう事業を興し、社会に役立てることであるからです。なるほど豪奢もまた世間にお金を回すことではありますが、新しいものを生み出すものではありません。そもそも私利私欲だけでは、ビジネスは生まれません。誰かのためになることを想像=構想することができなければ、新たな事業を生み出すことはできないからです。